子どもと自然・環境 事例 2

自然保育・教育が開く子どもの世界 子どもたちが成長するためには「実際体験」が必要です

上田女子短期大学 教授 上原 貴夫

上原さんの顔写真

はじめに

 現代では産業の変化が極めて目まぐるしく、新たな技術や職業が次々と現れてきます。これらの変化に対応していくことが求められています。たとえば、VR (仮想現実) といわれるものが登場し、VR環境は子どもたちの周りでも広がってきています。また、現代はAI (人工知能) 時代ともいわれ、その進歩にはめざましいものがあります。人が担ってきた仕事も、多くAIに取って代わられようとしています。

 このような時代で、人間らしい生活・社会の実現が求められています。

 「自然保育」は自然環境のもとで「体験」をベースとして展開していきます。子どもたちは豊かな自然環境や、友だち、おとなとのかかわりのもとで、自ら自分自身に応じた実際体験を積み重ねる過程を通して自己の個性を養い、力を身につけ成長していきます。

自然保育の現状

 世界ではフィンランドやドイツなどで、「森の幼稚園」として行なわれてきました。

 国内では長野県などが「自然保育」として行政で取り組んでいます。長野県では2015年に「自然保育認定制度」を実施しています。その中では「特化型」と「普及型」の2つのタイプが設けられています。平成30年12月末で両者合わせて公立、私立ともに33市町村185園が認定されています。その後、広島県、鳥取県でも行政が取り組み、両県では「自然保育認証制度」といっています。

 全国的には2018年4月に「森と自然の育ちと学び自治体ネットワーク」 (「森と自然を活用した保育・幼児教育推進自治体ネットワーク」) の呼びかけが長野県、広島県、鳥取県など、既に政策として位置づけている県が中心になって行なわれました。全国で16県95市町村 (40市、33町、22村) が参加しています (平成30年12月10日現在) 。

 短大等の高等教育機関でも授業を行なう動きが現れています。長野県短期大学では2014年当時から「自然保育」の授業が行なわれました。上田女子短期大学でも現在実施されています。

 学会では2014年に日本自然保育学会が発足しています。また、「森のようちえん」全国フォーラムが毎年開催されています。

就学前保育・教育の現状 

 平成30年度より改定保育所保育指針、幼稚園教育要領、幼保連携型子ども園教育・保育要領が実施に移されました。2019年は幼児教育無償化が実施に移されようとしています。

 それぞれに改訂点で「教育」という観点が明確に示されています。これにより教育が一層重視されてきていることがわかります。もちろんその重要性は理解できることです。

 特に現代のように、社会も産業も、また産業を支える知識や技術もめまぐるしく変化する時代にあっては、これにいかに対応していくかが重要であり、関心がいくことです。

 同時に「では、その教育はいかにあるか」が注視されなければなりません。

自然保育のねらい

 豊かな自然のもとで個性あふれる成長を目指すところです。

 自然保育・教育の基盤の大きなものとして「体験」があります。自然保育では子どもたち自らの体験を大切にしています。保育・教育の軸になるものです。

 戦後の教育に大きな影響を及ぼした人物としてデューイ (Dewey J.) がいます。現代に直接影響しているのがブルーナー (Bruner,J.S) です。ブルーナーは「教育の現代化」として知られています。彼の著による『教育の過程』 (The Process of Education) では、先人が発見し築いてきた知識や技術を身につけるだけでなく、自らが新たな発見をし、知識を生み出していく力を身につけることが示されています。そこでは課題を自ら発見し、解決していく、あたかも研究者としての力を身につけていく学習が主張されています。

 自然保育は子どもたちが自ら体験する中で気がつき、工夫し、探求し、学び、成長していくことをねらいとしています。その過程で友だちと協力し、自らの主体的な力を発揮していく—自然保育は時代にあった力を身につけるとともに、人間らしい成長発達をめざすものなのです。

実践から 私たちの実践

① 実施の様子 自然保育の例として私たちの実践を示していきます。活動は「週末型」として土曜日、日曜日の週末に、月に1回から2回実践しており、2015年から始めて5年目になります。「長野県望月少年自然の家」を主なフィールドとしています。

 参加者は就学前の乳幼児から、小学校低学年の子どもたち、保護者です。1回に子どもたち12人から13人、保護者4人から5人、スタッフは保育士資格を持つもの2人から3人、社会福祉士やキャンプディレクター等の資格を持つ者など2人から3人、大学生3人から4人で行なっています。

 森の保育園では子どもたちが進めていくことを大事にしています。子どもたちが自ら得ていく体験を軸としているのです。体験は自然の中での活動を通して得られるものもあり、友だちやスタッフなどの人と人とのかかわりによる体験も大事にしています。

② 1日の流れ 10時になると子どもが中心になって朝の会を進めます。子どもからスタッフまで参加者全員の名前を呼んでいくのも子どもです。今日の予定も子どもたちの考えを中心に決めていきます。野外での活動に向けて温度の確認、服装・装備のチェックも子どものリードで行なっていきます。

③ 年間の活動 表 1 のように3期に分かれます。その過程は環境や仲間、活動に適応していく段階から、自己の力を発揮する段階、次の成長に向けて力を伸ばしていく段階の3期です。表 2 に年間計画を示します。

表 1 年間の経過

4・5・6・7月

適応期

環境になれる。仲間づくり

8・9・10・11月

展開期

適応に応じて自己の活動を試みていく

12・1・2・3月

進展期

就学・進級に向けて

※表 1 終わり


表 2 2019年度年間計画 (予定)

4月21日 (日)

はじまりの会。森ウオーク。

春の森の楽しみ

5月18日 (土)

森の発見:森の不思議を見つける・探検する。

6月9日 (日)

知の冒険

6月22日 (土)

  ・23日 (日)

初夏のお泊まり会。森で眠る、夜の森の生態

7月14日 (日)

夏の森を体験する。緑濃い森を仲間と協力して歩く

8月18日 (日)

森の中で全身を使って遊ぶ

8月31日 (土)

秋を迎える森。森は早くも秋になる。

9月14日 (土)

秋の自然の恵み

10月5日 (土)

・6日 (日)

秋のお泊まり会。実りの秋。冬の準備に入る森

11月2日 (土)

食を知る 

12月8日 (日)

冬の準備:森の生き物、昆虫。動物、鳥など

12月21日 (土)

1年を振り返る:年末・年始の行事を体験する。成長を実感する。

1月19日 (日)

地域と触れ合う行事。地域行事。自分で考える行動

2月11日 (火)

仲間と行なう行動。入学・進級を迎えて

3月15日 (日)

1年を振り返る。修了式。

※表 2 終わり


参考

『教育の過程』J.S.ブルーナー著 鈴木祥蔵・佐藤三郎訳昭和38年 岩波書店


次の記事へのリンク 分野 7 の次の記事を読む

他の記事へのリンク 分野 7 の目次へ戻る


トップページへのリンク トップページに戻る