結婚・子育て・保育 事例 3
私たち子どものミカタプロジェクト (通称:ミカプロ) は、“子どもたちが、のびのびと自分らしく幸せに生きる人”になってほしいと願うおとなたちで運営している市民団体です。子ども支援を専門とする臨床心理士を中心に、計7名のメンバーで、長野県塩尻市を拠点に活動しています。
子どもたちの自分らしさをはぐくむには、一人ひとりの個性が、そのままに尊重され、“自分として生まれてきてよかった”と心底実感できる子育て環境が必要です。しかし、ほかの子と違いが大きかったり、できないことが多くあったりすると、関わるおとなたちは、不安や心配を感じます。「この子は、このままで大丈夫かな?」、「将来ちゃんとやっていけるかな?」など。
おとなたちの不安や心配のまなざしは、実は、子どもを傷つけます。私たちは、これまでのカウンセリング活動の中で、自分の個性が理解されないと感じ、自分はダメな人間だと傷ついてきた子どもたちに、たくさん出会ってきました。
そこで、子どもに対するおとなの「まなざし = 見方」を変えるために、「見方」を学んで「味方」になろう!を合言葉に、自分や子どもの個性を尊重し、自分が本来持つ力を引き出すかかわり方を伝える活動を始めました。
さて、こんな風に書いている私ですが、実をいうと、ほんの数年前まで、子育てが苦痛でまったく楽しめませんでした。
こだわりが強く、思い通りにいかないと激しいかんしゃくをおこしがちな長男。自分の「したい」・「したくない」がハッキリしていて、気持ち・行動の切り替えが難しい次男。一筋縄ではいかない息子たちの世話を、たった一人で行なうことは、本当に大変で、毎日イライラ、怒鳴ってばかりでした。子どもの個性を理解する余裕など持てずに、日々を過ごすことで精いっぱいでした。
カウンセラーとしての いくばくかの経験を持っていた私は、母になる前には、子どもの気持に寄り添う、よき母になれると思っていました。ですが、現実は甘くなく、そんな理想は、あっけなく崩れました。
わたしが母親になって痛感したこと。それは、「お母さんって、なんて、大変なんだろう」でした。
そもそも、子育てのイライラは、なぜ、起こるのでしょう? その理由は、大きく3つあります。1つ目は、核家族化による孤立です。これにより、お母さんのキャパシティを超えた負担がお母さん一人にかかります。2つ目は、母親とは、こうあるべき、という社会からの無言の圧力です。これにより、多くのお母さんが、イライラした自分を責めて、過度に自分を否定します。3つ目は、子どもの要因です。イライラしがちなお母さんのお子さんは、育てにくさを持っていることが多い傾向にあります。普通の対応ではうまくいかないことが多く、工夫が必要なことが多いのです。しかし、子どもに合ったかかわり方を学ぶ機会が乏しい、もしくは、あったとしても、専門的すぎて、余裕のないお母さんにはうまく実行できないため、親子関係が、こじれやすくなります。これら3つの要因により、「自分や子どもを否定し、親子が本来もっている力を発揮できない状況になること」。これが、お母さんのイライラの本質です。
それは、ずばり、「見方」を変えることです。自分をダメだと否定する「見方」をやめ、まずは、イライラしてしまう自分をも、認めて、受け入れ、肯定します。すると、自分が許され心にゆとりが生まれます。そのうえで、今の自分のままで、できること、うまくやれることはないか、と探してみるんです。
わたしたちは、こうした方法を「4つのミカタ」にまとめ、これを学び、互いの子育てを支えあう場として、「ママのミカタカフェ」という子育てサポートコミュニティを、行政等、お母さん支援を行なう事業者さんとの連携のもとに、運営しております。
ママのミカタカフェは、子育ての悩みや苦労を分かち合う小集団のつどいの場です。 1クール6回を基本に、その場に参加したいママたちが月1回から2回集まり、「対話」と「学び」を行ないます。
この場は、「どんな自分もオールOK!」をグランドルールに、誰もがどんな状態でもありのままに尊重されることを大切にしています。これにより、子育てがうまくできない失敗談を、安心して語ることができます。ファシリテーターの私たちも、うまくできない実情は、正直に話しています。リアルな子育ての実情を分かち合うことは、専門家然として正しい対応を伝えるだけよりも、参加者を強力にエンパワメントするからです。
しかし、ただ、苦労を分かち合うだけでは、受容・共感による「安心」は得られても、現実が変化することには限界があります。そこで、私たちが提唱する「4つのミカタ」を、講義やワークを通して学ぶ時間を持ちます。そのうえで、学んだことを、家庭で試してもらい、うまくいったこと、いかなかったこと、気づきや変化等を次の回でシェアしてもらい、「自分たち親子にとってうまくいく子育てのパターン」を見つけられるように、みんなで一緒に考えます。
私たちが伝える「4つのミカタ」とは、「こんな場面では、こう対応せよ」という特定のかかわり方ではありません。自分や子どもたちがどんな「個性」を持っているかをとらえ、自分たち親子の「うまくいくパターン」を見つけて増やす方法です。
これを学ぶと、「不安」や「心配」から「子どものできないところ」に注目しがちなお母さんたちが、「信頼」と「肯定」をベースに、「できること」や「うまくいくこと」に注目し、それを増やしていけます。
特定のかかわり方を教え込む方法では、教わっていないことには、対応できません。しかし、「4つのミカタ」を使えるようになると、自分たち親子の日ごろの様子をとらえ、自分たち親子にとっての最適なかかわり方を、お母さん自身の力で考えることができるようになりますので、どんな状況にも、適切にかかわれるようになるのです。
実際、継続的に参加したお母さんからは、「見方を変えるだけで、気持ちが楽になり、子どものいいところをほめられるようになりました!」、「子どもの個性を受け入れられました!」といった変化のご報告をいただいております。参加前後の自己評価も、「不安やイライラ」の程度が下がり、「自分や子どもに対する理解や肯定感」が高まる傾向が確認されています。
「ほかの支援者の人は、子どもを中心においてアドバイスをしてきたけれど、上間先生だけは、わたしの立場になって相談にのってくれた。それが、また、子育てをがんばろう!と思える活力になった。」
これは、過去、私があるお母さんから、実際に言われた言葉です。ともすると、支援の専門家は、自分たちが依拠する理論に基づき、理論的に正しいことを伝えることが、支援であると考えがちです。しかし、わたしが母親になって気づいたことは、「子育てとは、理屈通りにいかない難しい営み」であることでした。
これからのお母さん支援には、子育てのリアルな実情に寄り添うことが、なにより大切だと考えます。うまくいかない現実そのものを、お母さん自身が丸ごと肯定されることは、子どもの個性を丸ごと受け入れることにもつながります。わたしたち支援者に求められることは、専門家然として正しい対応をできるすごい人になることではなく、自分の弱さやできなさを、否定せずに、素直に認めることが大切だと考えています。
私たちの理念やビジョンに共感し、自分の地域でも、ママのミカタカフェを行ないたいと考える事業者さん、お気軽にお問い合わせください。
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