結婚・子育て・保育 事例 2

愛する人が見つからない 困難な若者の性愛と結婚

立命館大学 生存学研究所 客員研究員 能勢 桂介


1 進む少子化と未婚化

 現代では子どもの数がとても少なくなりました。1970年代と比べると、出生数は約半分、15歳未満の子どもの数も6割程度です。それは未婚化が進んでいるからです。30歳をすぎ40歳すぎた自分の子どもや周りの若い人 (おとな) が独身ということは現代ではよくあることです。それで、最近は近所から子どもの声が聞こえてきません。

 本稿では私の未婚男性研究をもとに未婚、少子化、若者・おとなの性愛教育について考えます。未婚データを確認してみましょう。 (図 1)

図 1 年齢別 未婚率の推移

年齢別 未婚率の推移のグラフ。男女とも増加傾向にあり、25から29歳、30から34歳、50歳の順に割合が高い。

図表 出典:『社会実情データ図録』 データは国勢調査

 未婚は80年代から増え始め45歳から54歳の未婚率は2015年現在、男性が23.4%、女性が14.1%です。彼らはバブル期に青年期を過した世代で彼らから未婚は始まり、この30年間で急増しました。少子高齢化はこれまで人類が経験してこなかった事態であり、さまざまなやっかいな事態を引き起こすと思います。子どもがいない独身者にとって自分の介護や葬送をどのようにするかは大きな問題です。彼ら彼女らには孤独の問題もついて回るでしょう。

2 なぜ未婚化が進むのか?

 結婚しなくても、子どもをもたなくても個々の自由だからいいのでは? と反論されるかもしれません。私も個々人の自由だと思います。しかし、確信的な独身主義者は少ない。多くの人は結婚したい (少なくともパートナーが欲しい) と思っているのです。

 では人々が結婚できなくなったのはなぜでしょうか。その理由は、第1に不況が長期化したこと (とくに男性の仕事の不安定化) と、第2に結婚と結びつかない恋愛が自由化されたことの二つです。第1の理由については、共稼ぎ世帯が専業主婦世帯を90年代半ばに上回るようになり、1999年に男女共同参画基本法が制定されましたが、男性が主な稼ぎ手であるという大前提は人々の意識においても制度においても変わっておらず、それが男性を直撃しています。もし性別 役割分業が なくなっているなら非正規職の男性も正規職の男性と等しい割合で結婚しているはずですが、そんなことはありません。男性は非正規職の方が未婚率が高く、女性は正規職の方が未婚率が高くなっています。 (図2)

図 2 正規・非正規の別の未婚率 (2010年)

図 2 正規・非正規の別の未婚率 (2010年)のグラフ。男性は正規就業者より非正規就業者の方が未婚率が高く、女性は非正規就業者より正規就業者の方が未婚率が高い。また男女ともに年齢が若いほど未婚率が高い。

図表 出典:『社会実情データ図録』 データは厚生労働省

 そのため相変わらず男性が女性に求めるものは容姿、女性が男性に求めるものは経済力です。これは統計でも明らかになっていますし、行政や民間の婚活アドバイザーの方も口を揃えます。

 第2の理由について考えてみましょう。これまでの結婚は団塊の世代を頂点に恋愛と結婚が結びつき、女性には処女規範が存在しました。要するに結婚するまでは女性はセックスをしないことが求められたのですが、80年代はそれを雑誌「anan」などが率先して解放し、90年代以降、若い女性の性交経験が急激に上昇しました (20歳〜24歳女性の性交経験率、1987年:31.9%→2002年:55.7%、国立社会保障・人口問題研究所『結婚と出産に関する全国調査』) 。これは女性の性の自己決定という点では良かったと思います。

 しかし、結婚という点では困ったことが起こりました。女性が働きはじめ、セックスを含めた男女交際が自由になったため結婚の決め手を欠くようになったのです。象徴的なのが1990年に出版された『結婚しないかもしれない症候群』 (谷村志穂、主婦の友社) です。都会で仕事もやって経済力をつけ、ボーイフレンドも何人かいる。でもこの人かあの人か、結婚か結婚しないか決められない、そんな気分が誕生しました。結婚するかどうかわからない恋愛を男女双方でもっといい人がいないかなと思いながらやっているのですから、結婚にたどり着くわけがありません。こうした状況と気分が全国的に浸透したのがこの30年です。またこの間、お見合いが激減しました。ということは恋愛で結婚相手を見つければなりませんが、恋愛は残酷なことにモテの格差が生じます。奥手な人は交際相手が見つけられず、お見合いもなくなり、やはり結婚にたどりつけません。

 これが未婚が増加している理由です。恋愛は広がりましたが、結婚には男性が一家の主たる稼ぎ手、一生を添い遂げる理想の人という高いハードルが存在するため、いつまでもあの人この人と迷い続け、ズルズルと婚期が伸びていきます。とくに男性は一家の大黒柱という考えを内面化しているので非正規職の場合、打ちひしがれ、自ら女性に対し ひきこもっています。逆に正規職である程度収入があり、自分に自信がある男性はいつまでも理想の女性を追いかける人が出てくる。しかし、どちらも現実の女性とコミュニケーションができていない点では同じです。

 未婚化でもう一つ見逃せないのが性風俗です。各種調査では、男性の一定数が性風俗を利用し、若い女性はなかなか稼げないので性風俗で就労しています (中村淳彦『日本の風俗嬢 』新潮新書、2014年) 。これは両性にとって不幸としか言いようがない事態です。

 以上を一言でいうと、現代の男女は自由だけど不安な恋愛と安心だけど窮屈な結婚のどちらも選び難く、そのために未婚状態が続いてしまうのです。

3 若者・おとなのために何をすればいいのか

 ではこの二律背反を解消するにはどうしたらいいのでしょうか? それには結婚の「しきい」を下げることです。結婚における性別 役割分業と永続性の観念を廃棄することだと思います。後者について補足すると、男女の親密な関係が長くつづくことはいいことですが、永続性を前提とするとハードルが上がりすぎる。とりあえず今はこの人といて、ダメだったらまた考えるというぐらいがいいのではないでしょうか。そのためには社会制度において男女平等を徹底化し、子育てや教育を社会化する制度的な裏付けが必要です。それが今の時代に合わなくなった昭和の結婚を自由と安心が両立する“ゆるい”男女関係にアップ・デイトさせる道だと思います。これは私の突飛な思いつきではなく、とっくにヨーロッパで実践されていることです。ヨーロッパでは同棲はしても結婚はしません (中島さおり『なぜフランスでは子どもが増えるのか』講談社現代新書、2010年) 。

 性教育に「性は生」という言葉がありますが、まったく同感です。大多数の人は人生において愛し愛される関係を必要としますが、現代ではそれが非常に困難になってきているのです。性愛や結婚は社会の土台ですがそれが仕事とともに根底から揺らいでいます。今後、自由で自然な性愛関係や制度を模索しながら、キャリア教育、主権者教育と同様に性愛/結婚教育を若者たち (おとなにも) にしていく必要があると思います。

 なお、本稿は今年夏以降に出版予定の小倉敏彦との共著『迷宮化する独身中年男性――見失われた着地点』イーストプレス社を白書向けに紹介したものです。詳しくは拙著をお読みください。


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