世界の子どもと多文化共生 事例 1

外国由来の子どもたちの教育保障 支援事業から見えてくること

(公財) 長野県国際化協会 (ANPI) 日本語学習コーディネート事業

地域コーディネーター 寺島 順子

サンタのロゴ

はじめに

 長野県国際化協会 (ANPI) は、国際交流と多文化共生社会の実現を目指して平成元年 (1989) から活動を続けている県の外郭団体です。長野県には121の国と地域出身の35,493名の外国籍の方が暮らしていますが (2018年12月末現在、長野県国際課調べ) 、中には子どもを連れての来日や、自身が入国した後に子どもを呼び寄せるケースもあります。そうして日本にやって来た子どもたちや日本で生まれ育った外国由来の子どもたちの学習を支援するため、ANPIは平成27年度 (2015) から外国籍児童生徒等学習支援事業 (平成28年度から日本語学習コーディネート事業) の実施主体として、県内の外国由来の子どもたちと保護者、学校、子どもたちを支援している個人・団体に向けた支援事業を続けています。事業内容は主に以下の3つです。

①外国籍児童生徒等の支援に関わる学校や、教育委員会等からの依頼対応

②外国籍児童生徒等が学ぶ母国語学校や、学校外にある地域日本語教室の運営・学習に関わる支援と、学校や保護者、関係機関との連携に関わること

③進学ガイダンスの企画推進に関わること

 ここでは、自身の取り組みの事例とそこから感じたことの一端を紹介します。外国由来の子どもたちに対する支援のあり方について考えていただく参考になればと思います。

高まる支援の必要性

 「日本語指導が必要な児童生徒」とはどういう子どものことでしょうか? 以前から公による定期的な調査が実施され、数値化されたデータはありましたが、子どもの実態は見えません。事業のはじめは対象を「長野県内の公立小中学校に在籍する児童生徒」に絞り、子どもたちが学校でどんなふうに過ごしているか、先生方がどんな指導をされているか等を、直に学校へ出向いて把握することに努めました。その結果、外国人の家庭だからとひと括りにはできない多様な事情がわかってきました。外国籍の両親のもと日本で生まれ育った子どももいれば、日本国籍でも家庭で日本語を使わない子どももいました。初年度5名のコーディネーターで県内すべての小中学校を訪問することはできませんでしたが、数字上の結果としては490名を越える児童生徒が日本語に関して学校で何らかの指導 (支援) を受けていることがわかり、これは文部科学省が行なった調査結果に近い人数でした。その後4年間の活動で、中学生が高校へ進学すればその高校生活に、来入学の保育園児の保護者から日本の学校生活について相談があればその家庭にと、対象の子どもの年齢は少しずつ上下に広がっています。

先生方も悩んでいる

 日本語学習コーディネート事業は、子どもに関わる先生や支援者、保護者に向けて、日本語教育や学校制度等、必要に応じた情報を提供することにより、より良い支援環境をつくることを目指しています。そのための学校訪問の際などに先生方からお話をお聞きすると、子どもの様子と支援に関しては、大きく2つの傾向がありました。

① 日本語がゼロの状態で編入学

 子どもが低学年の場合は、クラスの友だちの言動を見ながら語彙と体験を増やしていきます。学校生活に慣れるのは簡単ではありませんが、助けてくれるクラスメイトがどこの学校にもいるものです。この時期に日本語の初期指導を丁寧にしておくことがその後の学習の基盤になります。小学校高学年から中学学齢の場合は、生活の日本語と教科の学習言語を並行して学んでいく必要が出てきます。高校進学までを見据えたとき、日常会話ができるようになってから学習言語を学ぶというプランでは、高校受検までの時間が足りません。

② 日常会話の日本語はある程度できるのに、学習内容の理解につまずく

 日本の幼稚園保育園の経験がある子どもは、普段の会話に困っていないようにみえます。 ①で記した日本語ゼロの子どもも日常会話は徐々にできるようになっていきます。ところが、教科書を読ませるとスラスラ読めるのに内容を再構築 (再話) できない、算数の計算はできるのに文章題だとわからなくなるというように、教科学習でつまずく子どもがいます。学校の先生方は、日本語力不足が原因だろうと思いながらも、単に勉強嫌いなだけではないかと考えたりもします。

 今のところ日本語教育を専門に学んだ学校教員は非常に少ないと思われ、先生方のご苦労が続いています。校内に日本語教室や国際教室を持つ学校もありますが、日本語教室がない学校では学級担任、特別支援教諭や、学外からの支援者によって日本語や教科の学習支援が行なわれています。関係の先生方は、日本語指導や外国由来児の特性等について研修する機会に恵まれないまま、これまでの経験をよりどころにして指導なさっています。さらに、A市には支援員派遣の制度があるがB町にはないといった、自治体による支援体制の違いも先生方を悩ませる要因になっています。

子どもの支援は親の支援

 外国籍の保護者にとって、日本の学校生活は自身が体験したことのない文化です。日本の学校は保護者が関わる行事も多く、漠然とした不安を抱きながら子どもを学校に通わせている親もいるのではないかと感じます。親の一方が日本人だったり日本語が理解できたりすると、学校はそちらの親に連絡が取れれば事足りるので、学校側の意図は家庭に通じていると思いがちです。けれど家庭内では日本の学校文化を知らない親が、情報の外に置かれたまま、不安を募らせているかもしれないのです。親の不安は子どもにも伝わって、子どもの心をも不安定にしかねません。ANPIでは、通訳や多言語資料の提供等を通じて外国籍保護者への支援を行なっていますが、日本で成長していく子どもの将来をしっかり考えていただくために保護者に向けた支援をしていくことは、とても大切だと考えます。

サンタプロジェクト

 ANPIが行なっている外国籍児の教育支援に「サンタプロジェクト」という事業があります。これは「外国籍児童就学支援事業」として、主にその当時増えてきた日系ブラジル人の子どもの不就学状態解消を目的に平成14年 (2002) に始まり、紆余曲折を経て今日に至ります。これまで述べてきた日本語学習コーディネート事業も現在はこのプロジェクトの一環です。かつてブラジル人学校は県内に10校あり500名以上が在籍しましたが、日本の社会情勢の影響でブラジル人が帰国を始めると学校数も急激に減少し、平成30年 (2018) には塩尻市内のColégio Logos (コレージオロゴス) 1校となりました。日本の法律上の「学校」ではないブラジル人学校 (母国語学校) は公的な支援が受けられません。サンタプロジェクトは、賛同者・団体からの寄附によって、子どもたちの学びを支えています。

※表 始め

長野県内のブラジル人学校

 

学校数

在籍児数

平成20年

10

548

平成21年

10

229

平成22年

9

215

平成23年

10

190

平成24年

8

141

平成25年

5

95

平成26年

3

51

平成27年

2

51

平成28年

2

43

平成29年

2

44

平成30年

1

28

(外国籍児童支援会議・ANPI調べ 各年5月時点)

※表 終わり

真摯に課題と向き合って

 昨年の初め、1校のブラジル人学校が経営難から閉校しました。在籍生は一家で他県へ移ったり帰国したりしたとのことでしたが、地域の学校に編入学した子どももいたようです。日本の学校生活が始まって少ししたころ、子どもを小学校に転校させた元保護者の声を聞きました。「こんなことならもっと早く日本の学校に子どもを入れておけばよかった」。その小学校には日本語教室があり、通訳を兼ねた支援員も定期的に来校していました。先生方や母国語を話せる友だちが助けてくれて、楽しく学校生活が送れているようでした。ブラジル人学校は授業料の負担が大きいので経済的に助かったという事情もあると思いますが、日本の学校でも支援体制が整えば子どもも親も安心して学校生活を営めることがわかる事例です。実際のところ、外国由来の子どもがどこの学校でも十分に学べるようになるにはまだ多くの課題があります。今後は同じ課題に取り組む方々との連携を図りながら、少しでも役立つ活動が継続できればよいと考えています。


連絡先

公益財団法人 長野県国際化協会 (ANPI)

〒380-8570 長野市大字南長野字幅下 692-2

TEL 026-235-7186 / FAX 026-235-4738

メールアドレス:mail☆anpie.or.jp

ホームページ:http://www.anpie.or.jp


次の記事へのリンク 分野 4 の次の記事を読む

他の記事へのリンク 分野 4 の目次へ戻る


トップページへのリンク トップページへ戻る