子どもとメディア・ネット 事例 4
チャイルドラインは、18歳までの子どもの気持ちを聴く活動です。「子どもの権利条約」の理念・精神を基本とし、世界の147の国や地域で行なわれています。「子どもが主体の、子どもの最善の利益を実現するために、電話による心の居場所をつくり、受けとめた声を基に子どもが生きやすい社会をつくる」というミッションを掲げ活動しています。全国70の団体が連携して、2,000人余りの研修を受けたボランティアが、毎日夕方4時から9時まで、フリーダイヤルで年間約20万件の子どもたちの電話を受けていますが、1日に換算すると平均544人に対応している計算になります。それでも半分以上の電話は繋がらないまま時間切れになっています。2017年度の場合は全国の子どもからかかってきた電話は、約47万件でした。
チャイルドラインは子どもたちが安心して相談できるように子どもに「4つの約束」をしています。
① ヒミツはまもるよ…子どもが安心して話をできる場を提供するため、話の内容をそのまま第三者に伝えることはしません。
② どんなことも一緒に考える…特別な悩みだけでなく、どんな些細なことでも一緒に考えることを約束しています。
③ 名まえは言わなくていい…お互い匿名で相談することで、子どもが安心して話をできると考えています。
④ 切りたいときは電話を切っていい…話をするかどうかは子どもが主体的に選択できます。
子どもの話を聴くとき、主人公は子どもです。子どもが安心して話ができるように、お互いに名前などの個人情報は明かしません。子どもを一人の人間として受けとめることで、子どもの目線に立ってものごとを理解し、子どもの主体性を尊重し、おとなの考えを押し付けないように気をつけて話を聴いていきます。
子どもがもともと持っている自己解決力を信じ、話を聴いていくことで、子ども自身が気持ちを整理できることもあります。誰かに話をすることで気持ちが軽くなったり、次の一歩を踏み出せるようお手伝いしています。
チャイルドラインは、電話による心の居場所をつくり、子どもの話を聴くとともに、子どもの話に耳を傾けるおとなを増やし、電話から見える子どもの現状を広く社会に発信していくことで、子どもが生きやすい社会の実現をめざしています。
かかってくる電話の内容では、多い順に①人間関係 (親子・友だち・先生他) 、②雑談・話し相手、③いじめ、④こころに関すること、⑤恋愛、⑥進路・将来、⑦体に関すること、⑧部活、⑨不登校・ひきこもり、⑩ネットトラブル、⑪虐待、となっています。
チャイルドラインは、問題の解決を目的とせず、子どもの「気持ち」を聴くことを大切にします。心の叫びになかなか耳を傾けてもらうことのなかった子どもが、チャイルドラインをきっかけとして、自ら歩みだすこともあるかもしれません。また、話を一生懸命に聴いてもらった経験は、次に困難な出来事に出会ったとき、誰かに言ってみようかなという気持ちを起こさせるかもしれません。わたしたちは、子どもたちにとって、ホッとできる「こころの居場所」となるよう活動しています。
子どもの気持ちを聴くことで、子どもが自分で考え自立することを支援しています。子どもの声を聴いていると電話の始めの方とは明らかに違って、「スッキリした」、「話せてよかった」、「聴いてくれてありがとう」と電話の向こうで明るい声になる子がいます。子どもたちは、勇気を出して電話をし、電話が繋がって声が聞こえることは、とても嬉しいことなのだと思います。
現在、子どもたちをとりまく環境は大きく変わっています。デジタル化、IT環境の進化の中でチャイルドラインもオンラインチャットを子どもの声を受け止めるツールとして取り入れています。
社会状況の変化により、子どもたちが親しんでいるコミュニケーションのツールが電話からメールやSNS、LINEなどに変化しました。また、多くの子どもから、「話し声が聞こえてしまうから電話はかけにくい」など電話以外のツールでの相談を求める声が寄せられています。チャイルドラインでは、電話と似た双方向のコミュニケーションができる「チャット」システムを使い、子どもからの相談を受ける試行を2年間行ない、2019年度からは電話に並ぶツールとして正式に取り組みます。
試行期間の計92日間に7,542人の利用者があり、1,712件対応しました。対応時間の平均は40分。オンラインチャットにおける相談の特徴として、1回の対応時間が電話の3倍近くかかります。利用者の8割が女子で、主に中高生。話し相手を求める雑談のようなものは少なく、主訴が明確なものが多いです。
チャイルドラインでは「子どもが自分の気持ちを話すことで、気持ちの解消や整理につながる」ことを重視していますが、文章で書き出すことも同様の作用を生んでいることがうかがえます。また受け手とのコミュニケーションの中で、自分の気持ちに向き合う様子もみられたとのことです。
チャイルドラインチャットの特徴として、ページを閉じてから5分後に、それまでの会話内容は消えます。
会話の内容は、SSLというセキュリティーの仕組みを使って、他人に見られないよう守られています。
|
チャット (文章会話) |
電話 (音声会話) |
長所 |
・考えていることを書き出すと言う行為に、気持ちの確認や整理という効果がある ・周囲に人がいても利用できる ・聴覚や発語に障害がある場合や、海外からも利用できる |
・感情が読み取りやすい ・「やさしい」など、人のぬくもりが伝わりやすい ・話をすることで気持ちを整理しやすい |
短所 |
・言葉に込められた感情が読み取りにくい (子どもからも、冷たく映る場合がある) ・会話に時間がかかる |
・他人に聞かれないような環境が必要 ・聴覚や発語に障害のある子どもや、海外に住む子どもは利用できない |
長野県では無料通信アプリ「LINE」で中高生の相談に乗る「ひとりで悩まないで@長野」を実施しています。長野県の子どもたちが、自ら課題解決に向かって動き出す力につなげていく事を目指しています。
一昨年は、14日間で登録者3,817人、アクセス1,579人、547件対応。昨年は、7月から9月に計60日間で登録者1,961人、アクセス901人、529件対応でした。午後5時から9時まで受け付け、全体の約7割が女子で、約4分の1は高校1年生が占めていました。
相談内容で最も多かったのは「交友関係・性格の悩み」の72件。次いで、「学業・進学」 (38件) 、「学校・教員の対応」 (33件) 、「異性に関する悩み」 (32件) 、「いじめ・不登校に関すること」 (27件) などと続き、「無応答・冷やかしなど」に分類される相談も49件ありました。
相談終了時には、「気持ちが楽になった」「聞いてもらえてうれしかった」などの書き込みもあり、県教委は手応えを感じています。会話を可視化できる、チーム対応ができる、相談履歴が参照できるなど、相談窓口としての存在意義は大きいと思います。
一方、LINE相談は電話相談に比べ相談者から伝わる情報量が少なく、対応に時間がかかるため (平均対応時間は、1時間19分40秒!) 、相談員の確保が必要なことが課題です (業者に委託するためコストがかかる) 。
2013年以降、携帯電話・スマートフォンなどが普及し、 (情報セキュリティ事業会社) デジタルアーツによると、高校生98.5% (前回97.6%) 、中学生82.0% (前回76.2%) 、10歳から12歳の小学校高学年60.2% (前回37.9%) でした。また、0歳から9歳の所有率は56.8%で、前回より6.5ポイント増加しました。前回調査から小学生で22.3%も増加した要因について、デジタルアーツは格安スマートフォンの普及を理由の1つに挙げ、子どもに所有させる時期がより低年齢化したと分析しました。
総務省が発表した平成29年度情報通信白書では、10代のうち81%がLINEなどのSNSを利用しているなど、多くの子どもがインターネットによるコミュニケーションを日常的に行なっています。文部科学省、厚生労働省でも電話に加えSNS等による相談体制の拡充を進めており、社会的にもインターネットによる相談体制の構築が求められています。「電話をかける文化が無い」と言われている今の子どもたちには電話より相談しやすいものといえるでしょう。
相談すること自体、子どもにとっては、勇気がいることなので、いろいろな窓口を増やし、相談はいつでもいいんだよというメッセージを伝え続けることが大事です。メール、LINE、ツイッターなど、 子どもたちの コミュニケーションツールは変わっても、 「聴いて欲しい」という子どもたちの気持ちは変わりません。子どもの声をさまざまなツールで聴く必要があります。
それでも…本当は、じかに話を聴いてくれる人に話したい子もいると思います!是非子どもたちの話を聴いてください。チャイルドラインは、すべての子どもたちが笑顔になることを願っています。
次の記事へのリンク 分野 3 の次の記事を読む
他の記事へのリンク 分野 3 の目次へ戻る
トップページへのリンク トップページへ戻る