子どもとメディア・ネット 事例 3

子どものセルフコントロールする力を育てる

セーフティネットアドバイザー 矢澤 智都枝


必要なのはコミュニケーション

 私が、子どものインターネットの適性利用についての啓発活動を始めて10年が経ちました。当初は、「守る」という観点で、保護者に危険回避の方法を話しましたが、今は、「おとなと子どもが共に考える」という活動を大切にしています。

 ネット機器はコミュニケーションのツールです。機器にさまざまな制限をつけても、子どもがその制限の意味を理解しなければ、制限は友だちとのコミュニケーションや遊びを邪魔するものでしかありません。子どもは制限を外す方法を探し、隠れて使うようになります。

 制限が安全のためだと理解できるようになるためには、子ども自身の学習の場が必要です。しかし残念ながら、年1回程度の外部講師による情報モラル講演会では子どもの理解は深まりません。その時は理解したつもりでも、毎日触れるネットの誘惑には勝てません。

 子どもの「セルフコントロール」の力を育むためには、ネットの問題を掘り下げて考える機会を継続的につくることが重要です。必要なのは、大勢の人と話し合うコミュニケーションの機会と時間です。

 ネットの問題について、友だちと話す、家族と話す、先生と話す、家族や先生ではないおとな (地域の人) と話す、先輩と話す。自分の考えを話す、相手の意見を聴く、質問する、共感する、理由を考える、問題点を見つける、どうしたら良いか考える、大切なことは何か話し合う、行動する、振り返る、うまくいった点・いかなかった点について話し合う。

 このような普段の生活や学習活動で普通に行なっているプロセスを、ネットの問題についても面倒がらずに、おとなも子どもも関心を持って、勉強して、向き合い実践していくことが、子どもの「セルフコントロール」の力を育むことに繋がります。

取り組み ① 参観日に親子でディスカッション

 上田市A中学校では、参観日に親子情報モラル学習会としてパネルディスカッションを開催しました。

 1年生から3年生の各クラスの代表の生徒18名と保護者や先生方、おとなの代表5名が登壇し、事前に調査した自校の保護者アンケートや生徒アンケートの結果のグラフを見ながら、意見交換するスタイルで進めました。

 生徒からは、「なぜ動画の時間が長くなるか」「それについて保護者によく言われることは何か」、保護者からは「保護者が心配していること」や「どのような使い方を望むか」についての意見が出されました。

 登壇した生徒は「親が心配してくれているのがわかったのでトラブルに遭った時は一番に相談したい。ネットの情報を鵜呑みにしないで慎重に使いたい」と感想発表をしてくれました。登壇した保護者は、「時間の管理ができる人、ネットを上手に使いこなせる人になって欲しい」と子どもたちにメッセージを送りました。

 フロアの生徒からは、「親、先生、生徒の考えがわかって良かった。フロアにも質問が投げかけられたので自分の問題のように考えることができた」、フロアの保護者からは、「今日のような話を家に帰って子どもとしてみたい」と感想が寄せられました。

 アンケート調査は大変ですが、自校の調査結果は自分の問題として受け止めるきっかけになります。意見交換は学級や家庭で話し合うきっかけになります。

中学校でのパネルディスカッションの様子

取り組み ② 育成会で親子学習会

 上田市のB自治会では、育成会 (子ども会) とPTA支部が自治会と分館と連携し、「ネットの使い方をおとなと子どもで考えよう」という会を開催しています。 

 1年生から6年生までの親子と地域のおとなが大勢参加し、ネットのルールについて意見交換しています。

● 子どもの感想

・普段、家でネットの話をしないので、今日はいろいろな人と話せて良かった。今後は家族と話題にしたい。

・自分の立場だけだとわからないことが、違う立場の人の考えを聞いて、参考になった。おもしろかった。

● 保護者の感想

・地域でネットのことが話せる場があって良かった。

・自分の子どもは小学生で、悩むところもあったので、中学生の保護者の話がヒントになった。

● 地域のおとなの感想

・子どもの話を聞いて、子どもには子どもの事情があるとわかった。おとなと子どもの会話が大切。おとなと子どもが出席していることが良かった。

・みんなで考えを共有できる時間を持てたことが良かった。周りのおとなが無関心ではいけないと思った。

・子どもを守るためには、地域のおとなも関わりを持つことが大切だと思った。

育成会での話し合いの様子

取り組み ③ 中学校区で「子どもわいわい会議」

 子ども白書で毎年紹介させていただいている中学校区の地域全体で開催している「城南地区子どもわいわい会議」には、毎年、おとなと子ども総勢150人が参加し、「話し合おう 家族・友だち・ネットのルール ぼくたちわたしたちの大切にしたいもの」をテーマにし、グループトークをしています。

 わいわい会議の良さは異年齢・異世代の交流が自然にでき、参加者が連帯感を感じられることです。

● 小中高等学校の生徒が参加するので、子ども自身もおとなも、子どもの成長の過程が見れます。

・私はまだ小学生だけど、中学生や高校生のお兄さんお姉さんの話がとても勉強になった。

・自分の子は中学生だけど、今日の高校生みたいに自分でコントロールできる子になって欲しいと思った。早速我が家でも話し合いたい。

・僕は高校生になってからスマホを持ったけど、今は小学生から持っている。家族と使い方について話し合ってほしいと思う。ぼくの家では、人の悪口は書かない、夜中まで使わないと決めている。

● 保護者の悩みも共有できます。

・自分の子どもと話せないようなことが今日は話せた。

・悩んでいるのは自分だけでないことがわかって安心した。学校の保護者会でも話題にしたい。

● 地域のおとなの関心が高まります。

・子どもたちがしっかりと意見を持っていて感心した。

・おとなも子どもに負けないくらいネットの勉強をして子どもに話せるようにならなければと思った。

・おとなとして、子どもたちが安心して過ごせる環境整備をしていくことが必要だと感じた。

わいわい会議のグループトークの様子

最後に

 事例を3つ紹介しました。このような話し合いを中心としたネットの問題についての学習の場が、今後県内で増えてくることを期待します。しかし、ファシリテートしたり、コーディネートする人材が少ないことが大きな課題です。共に考えていきましょう。


矢澤さんのプロフィール

矢澤智都枝 上田市城南公民館勤務 社会教育指導員 県下各地の学校、公民館等でセーフティネットについて講演活動を行なっている。


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