子どもとメディア・ネット 事例 2

「ゲーム障害」「ネット依存」について

長野県精神保健福祉センター所長 小泉 典章

小泉さんの似顔絵

「ゲーム障害」について

 2018年6月18日に世界保健機関 (WHO) が発表した国際疾病分類第11版 (ICD-11) 最終案には、初めてゲーム障害が収載されました。ゲーム障害はこれまで正式名称がなく、精神・行動障害のうち「その他の習慣および衝動の障害」に分類されてきました。日本を含むWHO加盟国は今回の認定を基に対策を立てることになり、ゲーム障害が広く認識されていく契機になると期待されます。

 臨床的特徴として、(*1) ゲームのコントロールができない、(*2) ゲームを他の何にも増して優先する、(*3) ゲームにより問題が起きているが、ゲームを続ける、またはさらに増える、の3項目が挙げられています。また、定義では、ゲームに伴うさまざまな問題が深刻であることが必要とされます。これら4つの症状が、12か月以上続く場合にゲーム障害と診断されますが、4症状が存在し、しかも重症である場合には、それより短くとも診断可能です。

 隣の韓国でもゲーム障害は深刻です。韓国では、2002年にネットカフェで86時間、ほとんど寝ずにゲームをした20代男性が死亡しています。2017年の調査では、全人口の推計18.6%がネット・スマホへの過剰依存危険群だそうです。

 久里浜医療センター (以下、久里浜) の樋口進院長によれば、ゲーム障害の患者は過去1か月から6か月の間に、6割が学校を休み、4割から5割が成績低下、2割から3割が家庭内で暴力を振るうなどの問題が生じています。また、ゲーム障害は、主にネットを介するオンラインゲームに依存している場合と、そうでないオフラインゲームに依存している場合の二つに分かれます。久里浜の外来患者のほとんどがオンラインゲームをきっかけにネット依存に陥っているそうです。久里浜で年間約170人が初診で訪れ、他に約90人は家族が相談に来ます。未成年者が7割で、さらに20代前半も多いそうです。

 久里浜では、ゲーム障害をピンポイントで調査することは難しいので、スマホ・インターネット依存関連相談件数の推移を調査しています。長野県精神保健福祉センターでも過去5年 (平成25年度から29年度まで) のスマホ・インターネット依存の相談件数を調べたところ、38件あり、年々増加傾向にありました。平成28年度からは前年度の倍増をしており (平成30年度も2月末迄でやはり倍増傾向) 、確認できるだけでもネット依存の相談の約半分がゲーム障害の相談でした。

「ネット依存」とは

 近年のインターネットの普及、およびそのサービスの発展は著しく、わが国でもネット依存に陥る人々の増加が懸念されています。久里浜の樋口進院長のご厚意により、ネット依存治療部門 (TIAR;TREATMENT OF INTERNET ADDICTION AND RESEARCH) の文献を引用し、ネット依存について紹介します。

 行動嗜癖とは、ある習慣が行き過ぎてしまい、その行動をコントロールするのが難しいまでになった状況です。その行き過ぎた行動のために、さまざまな健康問題や社会的問題をひきおこすことがあります。たとえば、ギャンブル嗜癖などがこれに該当します。なお、インターネット嗜癖より、インターネット依存またはネット依存の方が一般的なことから、本稿ではネット依存とします。

 ネット依存の一致した定義はまだありませんが、ヤングによれば「インターネットに過度に没入してしまうあまり、コンピューターや携帯が使用できないと何らかの情緒的苛立ちを感じること、また実生活における人間関係を煩わしく感じたり、通常の対人関係や日常生活の心身状態に弊害が生じているにも関わらず、インターネットに精神的に嗜癖してしまう状態」と定義しています。実際に毎日のように10時間以上アクセスし、インターネットが原因で、家族や友人との関係に亀裂を生じたり、仕事や学校の勉強に支障をきたしているにもかかわらず、やめることができない人もいます。一部のひきこもりの方にとって、ネット依存はコインの裏表の関係かもしれません。

 ネット依存については、長野県教育委員会で毎年実施している「インターネットについてのアンケート」の平成30年度の調査結果が出ています。「自分にネット依存の傾向があると思いますか?」という設問に対し、高校生の約3割強が「思う」と回答しています。日に3時間以上ネットを利用していると答えた高校生の割合は48.0%で、前年度より8ポイント増えています。ネット利用に使う機器 (複数回答) は、小中学生でゲーム機が目立ち、高校生ではスマートフォンが大半でした。小中学生でも、平日に3時間以上ネットを使っていると答えた割合はともに10%台でしたが、スマホ利用率は毎年伸びており、本年度は小学生47.2%、中学生54.9%で、高校生94.5%、中学生では初めて5割を越えています。

ネット依存の治療

 ネット依存そのものには確立された治療法はありません。また、重症の嗜癖の場合には、背景に双極性障害や発達障害といった精神疾患がある場合や、実生活において人間関係上や経済上深刻な問題を抱えており、そこからの逃避の場合もあります。

 ヤングは、その著書「Caught in the Net」 (1998) の中で、ネット依存からの回復のために必要なこととして、以下のようなことをあげています。

① 自分が失いつつあるものを知る:インターネットで費やす時間のために、切り詰めたり、削ったりしていることがらを 書き出しランク付けする

② オンラインにいる時間を計る:自分がどれだけの時間をこの習慣に費やしているかを明確に知るために、実際に使った時間の記録をつける

③ 時間管理法を使う:代わりにできる活動を見つける、自分の利用パターンを見きわめ、その反対のことをする、外部からの防止策をさがす、計画的なインターネットの利用時間を予定表に書き込む

④ 実生活のなかで支援を見出す:支援グループを探す

⑤ 自分が嗜癖になったきっかけを探す


 ネットをまったく使わない生活はあり得ないので、久里浜では利用時間を減らすことを目標としています。利用時間のルールを作る際は子どもの意見を尊重する一方、塾や予備校、アルバイトなど実社会での活動時間を増やすのも効果的で、スマホやゲーム機を取り上げ、家でネットを遮断しても、うまくいかないとも指摘しています。ひきこもりの人にはポケモンGOも妙薬になり、外出できることもありえます。ゲームに救われている状況で、無理に止めさせると、自殺企図等の衝動的な突発行動も生じます。重度の嗜癖の場合には医療機関による認知行動療法、家族療法等が行なわれています。

 韓国では政府が、2014年からネット依存の危険性の高い子どもたちに対し、合宿形式での治療を始めています。規則正しい生活を送り、専門家との面談や体験学習を通し、ネット以外への関心を高めるのが目的です。我が国でも、国立信州高遠青少年自然の家で類似の試みが行なわれています。平成30年度には8泊9日のセルフディスカバリーキャンプ (19名参加) とそのフォローアップキャンプ (2泊3日、15名参加) が開かれています。平成30年度は以前の参加者にセカンドフォローアップキャンプ (2泊3日、15名参加) も行なわれました。それぞれのキャンプ合宿には、ネット依存回復者であるメンターが、17、15、12名参加しています。


参考

*1 久里浜医療センター ネット依存治療部門

http://www.kurihama-med.jp/tiar/index.html

*2 長野県教委:平成30年度インターネットについてのアンケート調査結果

https://www.pref.nagano.lg.jp/kyoiku/kokoro/shido/ketai/documents/301121shiryou.pdf

*3 平成30年度文科省委託事業、青少年教育施設を活用したネット依存対策推進事業報告書.

http://www.niye.go.jp/kanri/upload/editor/131/File/report.pdf


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