子どもとメディア・ネット 事例 1

須坂高等学校におけるスマホ討議 「生徒申し合わせ」という新しいスタイルの模索

長野県須坂高等学校 前生徒副会長 (執筆当時) 宮崎 愛斗

宮崎さんのイラスト

背景

 須坂高等学校生徒会ではスマートフォンの適切な使用法について考えてきました。須坂高校は伝統として校則がない学校として有名ですが、具体的なルールがないゆえに最近、想像を超えたスマホへの依存と学校生活への影響があることが判明しました。生徒会ではこれまで通り、生徒の主体性を維持すべきか、それとも新しいルールを策定し、現状の回復を目指すべきか、検討をしたうえで全校に打診を行ないました。結果、生徒手帳に掲載の「申し合わせ事項」への追加という校則には至らない形でルールを策定し改善を図るという、新たな形での対策を講じることとなりました。それが「正しい決断」に迫れたかどうか賛否の声があることは事実ですが、本稿では新体制を樹立した平成30年度生徒会活動を報告します。

1 スマホ使用法の改善を求める声と生徒会の対応

 生徒間におけるスマートフォン (以下スマホ) の使い方が悪すぎるという声は、一昨年の12月、ある先生からあがりました。先生は生徒の日常生活に入り込むスマホの取り扱いについて警鐘を鳴らしたのですが、私も含め生徒会三役はそれに関して意識したことなどはなく、執行部で率先して現状を変えてほしいという提案に当初は消極的でした。それはスマホをいい意味で自分たちのけじめで使用できているという自負があったためです。しかし全校レベルで問題を考える必要性を感じ、まずはアンケートをとることから始めました。

2 生徒会主体による全校アンケート・討論会の実施

 全校アンケートは平成30年1月30日及び2月7日に実施しました。対象者は3年生を除く (入試時期と重なるため) 1年生と2年生全員 482人 (1年244人、2年238人) で回答率は1年生で55%、2年生で85%でした (1年生の低回答率は学校行事と重なり十分な説明時間が設けられず全員提出を徹底することができなかったためと考えられます) 。質問事項は次のとおりで、個々が抱える問題点を挙げることに重点を置きました。 (すべて複数回答可、無記名)

① あなたはスマホのどんな機能をよく使用しますか。

② スマホで気になる事、または改善したいことはありますか。また、友だちなどからそのようなことを聞いたこと、見たことはありますか。

③ スマホの便利な点を教えてください。

④ スマホ利用に際して自分のルールがあれば教えてください。

⑤ 学校単位でルールを作ることは必要と考えますか。


 回答をみると、自己ルールに関して、使用時間を制限する機能を用いて勉強に集中することや夜間は自分の部屋に持ち込まないなど積極的なスマホルールを実践している生徒が約40人近くもいることがわかりました。また、よく使う機能としてはSNSなどのアプリやゲームなどが1年から2年共通で性別関係なしに多くありました。気になる事としてはSNSでの悪質な発言や肖像権問題、歩きスマホなど現代社会が抱える問題点が出ました。しかし、驚いたことに「授業中及びテスト (模試) 中に使用している人がいて不快」という意見や、「清掃中も使用していて困る」など、すぐに改善すべき課題があることを示す結果となりました。執行部では本アンケートを基に今後の対策を考える「生徒討論会」を開催しました。少人数の参加でしたが、ここでも友との会話の減少や昼食を取る暇もなくゲームに明け暮れる姿があるなど、中学時代と大きく異なる自由度の違いから生じたと思われるスマホの悪化した使用状況が浮き彫りとなりました。

3 「生徒申し合わせ事項」への追加と拒否権

 以上のような現状を把握した生徒会では、これ以上の放置は不可能との考えで一致しました。先生方からは、これ以上の悪化が見込まれた場合、強制力のある校則を設定するとの意向も聞かれました。生徒会執行部では抜本的な対策を行なうこととなりましたが、前述のとおり本校では生徒の自主性を重視しており、執行部では90年間続いたその伝統を途切れさせることに抵抗感がありました。そのため校則にまで至らずとも全校生徒へ適切な使用を呼びかける方法を模索することとなりました。考え出された案は生徒会規約に基づき「生徒手帳」に掲載されている、生徒が意識してほしい最低限のマナーを示したページ「生徒申し合わせ事項」へ、適切なスマホの取り扱い方を掲載するというものでした。強制力は無く、あくまで共通認識という方針を軸とし、強制的に良い方向に導くよりもまずは全校生徒に問題意識を抱かせ現状を認識・整理してもらうことを目的としました。そして第2回定例生徒総会にて全校の審議を経ることとなりました。

審議した「生徒申し合わせ事項」への追加事項

第2回生徒総会 第5号議案

● スマートフォンを含む携帯電話の利用について

・授業中及びテスト中には携帯電話を持たない、使わない。

・歩きスマホは校内及び校外で行なわない。

・清掃中は携帯電話を持たない、使わない。生徒は主体的に環境美化に取り組む。

4 「否決」そして「拒否権」発動へ

 「生徒申し合わせ事項」への追加は、昨年5月10日の定例生徒総会第5号議案に提出されました。しかし賛成者は出席者数595人の過半数にも満たない163人でした。もちろん否決という結果となり、議論は持ち越しとなりました。全校生徒への周知が盛んでなかったことや生徒会主体でのルールづくりに批判的な意思の表れだったと分析します。加えて審議中、意見に聞く耳を持たない人や、意見の発信者がごく少数であったことも懸念されました。申し合わせ案は全校が共通認識できるルールに至ると想定していましたが、もう少し余裕をもった議論をすべきであったと振り返ります。会長以下執行部は否決のままでは前進できたとはいえないとの意見で一致し、生徒会長が「拒否権」を行使することとなりました。臨時生徒総会は予定とおり昨年6月に開かれました。ここでは前回の反省から1年生を中心に学級長単位で議論を重ねたうえで意見を全体へ発信するという働きかけが行なわれ、発信者は計10人以上にも及びました。一人ひとりが真剣に初のスマホルールに向き合い、主体性を維持する考えに賛同する意見が多く聞かれました。一方で、「ルールがあるだけでは後に形骸化するのは必至であり議論は続けていくべき」との声や「どうしてここまでやるのか」といった批判的意見も聞かれました。しかしながら討論は前回よりも熱気に包まれ、貴重な意見を聞くことができました。

 最終的に原案の補強をした以下の項目が「生徒申し合わせ」事項に追加されることが可決されました。

臨時生徒総会 第1号議案

● スマートフォンを含む携帯電話の利用について

・授業中及びテスト中には携帯電話を持たない、使わない。

・歩きスマホは校内及び校外で行なわない。

「清掃」の時間はスマホの使用を止め、生徒は主体的に環境美化に取り組む。

(太字は原案を補強した)

5 おわりに

 スマホが台頭したことによる問題点はその使用法にあると思われます。一人一台所持が当たり前な今、自己満足を求めスマホが使われています。つまり、他人に直接迷惑をかけないのです。したがって自分の行為を俯瞰することなく没頭してしまいます。討論中、ある生徒から「自己責任でどうですか」との意見が出されました。私は、現在噴出している自己責任論が本校でも出されたことに疑念を感じました。自己責任なら何をやってもよいのか、周りの気持ちを推し量ることはできないのか。須坂高校における「自由」は単に何をやってもいいわけでなく「責任の伴う自由」であったはずです。責任とは周りを常に意識して行動することだと私は思います。執行部では、スマホ使用による対面での会話の減少も懸念事項に挙げました。直接言わない、話さないというスタイルでは相手の気持ちなど考えられる人になれるでしょうか。それらをより悪化させ、ついには生きにくい世の中をつくってしまうでしょう。本校では初のスマホルールが設定されましたが、これで解決したのではなく継続的な議論が行なわれることを希望します。常に自分自身を振り返り、責任をもてる行動をしているかを確認することが大切なのではないでしょうか。その状態によってはルールの厳格化もしくは反対にルールの撤廃を行なってもよいと考えています。スマホとの折り合いをうまくつけるとともに学校という小さな社会空間での相手を思いやる気持ちも大切にしてほしいと思います。


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