子どもと共につくる地域 事例 7

輪っと集まれ!中高生・若者ほっとキッチン (中高生・若者版こども食堂) と、北信こども食堂ネットワーク

NPO法人 長野県PS・ふくしネットセンターやさしなの 理事

輪っと集まれ!中高生・若者ほっとキッチン 運営責任者 小林 美千代


1 中高生・若者版こども食堂の誕生

 昨年4月「輪っと集まれ!中高生・若者ほっとキッチン」を立ち上げました。3年前県内初のこども食堂を立ち上げましたが、小学校低学年の母子の参加が多く、中学生以上の参加がほとんどありませんでした。そこで、中学生以上のための居場所が必要と考え、それまで培ったノウハウを活かし「中高生・若者ほっとキッチン」を開設しました。会場は長野市中部公民館第5地区分館。長野市の中心市街地で、公共交通機関の便が良く、駅から徒歩10分程度、自転車で来ることもできる場所です。

 コンセプトは、以下の3つです。

① 生きる力を育む:簡単な調理を覚え、自宅で作ることができるようになる

② 自分の時間を楽しむ:学習するもよし、一人で読書するもよし。人の気配を感じながら自由時間を楽しむ。学校でも家でもない第3の居場所

③ 地域のおとなたちと交流:ボランティアの方たちと調理・会食することで一人ぼっちではないことを実感し、生きていていい!と自己肯定感を養う

「中高生・若者ほっとキッチン」記念写真

 当初、思春期の中高生・若者がはたして自発的に参加するか不安でしたが、一人でも必要と思ってくれる生徒がいれば続けようと考えました。周辺中学校4校と高校通信制、定時制、その他中高生・若者が立ち寄りそうな場所にお願いし、チラシを配ることから始めました。平成30年4月から1年間スタッフが手分けして毎月2,500枚のチラシを作成、配布してきました。

 チラシだけでは参加申し込みは多くはありませんが、根気強くさまざまな機関へ出向きお願いしたところ、口コミで徐々に参加者が増えてきました。こちらから根ほり 葉ほり聞き出すことはしませんが、中高生・若者たちとふれあうことで、抱えている問題が朧気ながら見えてくることもありました。私たちスタッフは専門家ではないからこそ寄り添えることがあると思っています。

 必要であれば、専門家にも繋いでいます。一例ですが、参加している高校生が進路に悩んでいました。そこで、ほっとキッチンを応援してくださるキャリアコンサルタントにお願いし、親子の進路相談を行ないました。いつもうつむき加減だった生徒が、少し顔をあげ笑顔が出てくるようになり、ほっとしたということがありました。

2 多様性を育むほっとキッチン

 今年4月の入管法改正で今後外国人実習生及びその家族が増加するだろうと見込まれます。長野県でも今後どんどん増えていくでしょう。そこで将来を見据え、当法人の副理事長がベトナム交流協会の専務理事を兼務していることから、12月24日クリスマスに開催したほっとキッチンにベトナムの若者3名に参加を呼び掛けました。1月6日は母子を含め4名のベトナムの方が参加しました。母子は来日してまだ2か月で、日本語はカタコトですが、他のベトナムの方に通訳をお願いし交流ができました。双方に交流をしようという前向きな気持ちがあればなんとかなるものです。互いに尊重しあうことから始め、自分たちにはない文化に興味を持ち理解しあうことが地域で共存していく第一歩と考えます。

 今後、生活習慣やお国柄といったことをスタッフも学んで「ほっとキッチンがあってよかった!」と感じてもらえればと願っています。そして彼らが母国に戻ったとき、ベトナム版「ほっとキッチン」ができればいいなぁと密かに願っています。

ベトナム母子と日本の子どもたちの記念写真。あっという間に仲良しに!

3 北信こども食堂ネットワーク

 平成30年5月、第4回北信こども食堂ネットワーク勉強会を開催しました。10食堂と関連団体、計26名の参加でした。議題は ① 資金集め ② 食材の調達 ③ 地域との連携、子ども・ボランティアへの周知です。3グループにわかれ、話し合いを行ないました。提起された共通の問題は、会場の優先予約、運営資金不足、子どもたちへどう周知するか、です。学校や地域との連携も徐々に進んでいますが、まだまだ課題山積です。初回から参加している常連の母子もいて、こども食堂を心待ちにしている子が多いという報告もありました。こども食堂を通じてボランティア同士が知り合いになった、お年寄りとの交流が生まれた、今の子どもたちとの触れ合いができて楽しかったといった嬉しい報告もありました。

北信こども食堂ネットワーク勉強会の様子の写真

 勉強会では侃々諤々熱い議論が繰り広げられました。

 また、主催者と参加者の意図が多少ずれているようだという意見も出ました。安価で利用できるファミレスと認識しているのではないか?このままで良いのか?という疑問も出てきました。

 総じて、こども食堂は貧困対策の一環だけでなく、地域の交流の場・居場所作りとしての位置付けが強いだろうと感じました。

 第5回の勉強会は11月5日「虐待された子、おとなになったらこうなった!元虐待児が語る『その時』から今まで」という題で親からの虐待経験のある方に講演をお願いしました。淡々と語られる実話は、聞く者にとって胸が押しつぶされそうでした。マスコミ等で虐待問題が取り上げられる度に心が痛みますが、目の前で実際の生の声で語られる悲惨な出来事に言いようのない不安と憤りを感じました。最後に「虐待は絶対あってはならないこと。自分の経験から、今まさに苦しんでいる子どもたちのために行動を起こしていきたい」という逞しい言葉に、ほっと胸をなでおろしました。

4 今後の展望

 「輪っと集まれ!中高生・若者ほっとキッチン」では、今年度から月2回開催を現在模索中です。1回は学習支援の日とし、学習が主となります。食事は簡単なものを用意。学習意欲のある子をサポートしていく予定です。2回目は食育の日とし、家庭料理だけでなく、郷土食・伝統食を取り入れ、食文化の継承にも取り組んでいきたいと考えています。

5 最後に

 最近、幼少時から苦労してきた若い方からこんな言葉が送られてきました。「耐えて耐えて強くなり、寂しい思いもいっぱいしたけれど、友人や周りの人たちから優しさを教えてもらいながら、今までなんとか生きて来ることができました。そして今幸せな家庭を築くことができ、皆さんに感謝しています」。

 「中高生・若者版ほっとキッチン」を立ち上げるにあたって、身を粉にして協力してくれた人です。

 今まさに辛い思いをしている子どもたちが、希望を持てる一言ではないかと思いここに引用しました。経済・教育・生活・権利の平等が子どもの成育にとても大事だと思いますが、根っこの部分は人と人との繋がりだと思っています。我々庶民の草の根の力を結集すれば、今の世の中、捨てたもんじゃないと思うのですが。


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