子どもと共につくる地域 事例 6

つながる地域・つながる子育て

佐久子育てわくわく団 小林 恵理子

小林さんの顔写真

さくこども食堂・さく親子カフェの誕生

 「さくこども食堂」は、3年前、佐久の子育てを良くしたいと集まった市民有志で「佐久子育てわくわく団」を立ち上げ、子どもの居場所作りとしてこども食堂の活動をスタートしました。「食」と「あそび」を通して地域ぐるみの子育てを…をコンセプトに、田んぼで泥んこあそびや山で飯ごう炊飯をしたり、佐久鯉や信州サーモンなど地域の食材を使ったお昼ごはんを、地域のおじちゃんやおばちゃんと子どもたちと一緒に作っています。

 「さく親子カフェ」は、入園前の親子が交流し、お昼も食べられる居場所が欲しいという子育て中のママの声から、2年前誕生しました。

親子でご飯を食べている写真

子どもや子育て中のママの現状

 近年、子どもや子育て世代を取り巻く環境は著しく変化しており、貧困・孤立・虐待・いじめ・不登校・孤食など、地域とのつながりも希薄化し、見えない・見えにくい・知られたくないなど、多くの課題を抱えています。例えば、貧困と言っても、経済的な貧困だけでなく、帰宅してもお家の人がいなくて「さびしい」とか、宿題を見てもらいたいけど仕事から帰ってきたお母さんは夕食を作ったりお風呂を入れたり、忙しそうで「見てもらえない」、お友だちとけんかしちゃったこと、お母さんに話したいけど、学校の先生に言われたら嫌だから「言えない」など、心が満たされない「心の貧困」を抱えているのも現状です。

 出産後、保育園や幼稚園に入園するまでの子育てに限っては、授乳・離乳食・病気・発達・トイレトレーニング・子どもの癖など、日々子どもと向き合いながら不安や悩みを抱えています。まして、第一子ともなると、母子手帳やインターネットでさまざまな解決方法を調べることができますが、何を試してもうまくいかなかったり、我が子の症状と当てはまらなかったりすると、「うちの子、発達障害かな」「どうしたらいいのかわからない」と、ゴールのない迷路をさまよったような不安に陥ることもあります。

 私自身も、11年前県外から嫁ぎ、現在、小4と小2の男児の子育てをしていますが、初めての子育ては不安の毎日で、「こんなこと聞いたら『ママなのに』って言われるんじゃないか」「他の人はどうしているのだろう」と思うことがたくさんありました。

 一昔前であれば、学校帰りに「おうちの人がいないなら、おばちゃんの作ったおやき食べて、遊んで待っていな」と近所の人が声をかけてくれたり、「おばちゃん、お母さんには内緒だけど、今日学校で友だちとけんかしちゃってね…」と話を聞いてもらえたり、そんな地域とのつながりがありました。

遊びの引き出しが○○?

 さくこども食堂に初めて参加した小学3年生の男の子、始めは部屋の隅で他のお友だちが遊ぶ様子をうかがっていました。しばらくすると私に、「ねぇ、ゲームしたい」というので、「じゃあ、みんなでできるゲームしようか」と誘うと、「うちに帰ってDS (ゲーム) がやりたい」と言い出しました。よくよくその子と向き合っていろいろな話をしてみると、家ではDSばかりやっていて、おうちの人と話をしないとのこと。親世代も、ファミコンやプレイステーションなどゲームが流行り出した世代が親になってきているため、このような家庭は、近年珍しくなくなってきていると感じます。

 ゲームがない時代には、学校から帰ると近所の子どもたちが集まって、田んぼで生き物を採ったり、庭で秘密基地を作ったり、自分たちで遊ぶ道具を作り、集団で群れて遊ぶ中から、想像力や社会性や協調性が自然と身についてきました。

 子ども時代に経験する「遊び」とは、「生きる力」です。自然の中で遊びを通して、生きるための知恵を身につけ、創意工夫して「楽しい」を自身で生み出す引き出しは、学校の勉強や宿題では学べません。

 そんな遊びの引き出しが少ない背景から、さくこども食堂では、道具を使わないでみんなで遊べる遊びを子どもたち自身が考えて遊んでいます。さらに、さまざまな年齢の子どもたちが遊べる遊びを配慮し、鬼ごっこや色鬼、だるまさんが転んだやけいどろなどをしています。そんな遊びの中からも、小さい子の変わりに年上の子が鬼になってくれたり、転んだ子を起こしてくれたりと、社会性や協調性が育まれています。

さくこども食堂・さく親子カフェの活動で見えてきたもの

 さくこども食堂に参加するこどもたちは、子どもだけの子もいますし、親子で参加する子もいます。年齢もさまざまです。長野大学の学生もボランティアで子どもたちと一緒に遊んでくれます。始めのうちは、子ども同士も学生のお兄さんやお姉さんとも、少し遠慮もありつつ関わりますが、一緒に遊んだりお料理したりしながら、自分のことを話したり、お友だちの話を聞いたりしながら、自然と自分の立ち位置を学んでいきます。地域のおじちゃんやおばちゃんから「皮むくの上手ね」「お皿洗うのプロみたいだね」と褒められると、子どもたちは嬉しそうに意欲的に取り組んでくれます。子どもたちは、「褒められる」「認めてもらえる」ことを心待ちにしているように感じます。

 さく親子カフェに参加する未就園児の親子は、同じ悩みや不安を抱えるママたちと交流しながら、「うちもブロッコリー嫌いだったけど、細かくしてスープに入れたら食べてくれるようになったよ」、「トイレに子どもの好きなキャラクターのポスターを貼って、『○○に会いに行こう』と誘うと喜んで行ってくれるようになったよ」など、子育てする中でのヒントや解決策を話したり、聞いたりすることで、「うちだけじゃなかったんだ」「今度、我が子にも試してみよう」など、気持ちの面でもリフレッシュすることができているようです。また、普段からママ自身がトイレに行くことすら我慢していたり、お茶も飲まずに子どもの相手をしているケースもあり、「ちょっと、すみません」と言えないで我慢したり、頑張ってしまっています。さく親子カフェでは、保育士や助産師が相談に乗ったり、ママがトイレに行く間、赤ちゃんを見ていたり、安心できる機会を作っています。

地域とのつながりを持つ居場所作り

 地域とのつながりが薄くなってきている現在、このような居場所作りを通して、地域とのつながりを復活させ、「ちょっと、すみません」「おばちゃん聞いて」と気軽にSOSの出せる社会を作っていかなくては、将来を担う子どもたち、若者、子育て世代は、さらに深刻な状況になっていくことと危惧しています。

 地域とのつながりは、人と人のつながりだけでなく、心と心のつながりでもあります。子ども時代、「近所のうちのガラスを割って、おじちゃんには怒られたけど、おばちゃんには世話になったな」「隣のうちに回覧板持って行くと、おやつもらえて嬉しかったな」など、「地域っていいな」「地元って温かいな」と感じて育った子どもは、いつか地域に恩返しをしたい、何か地域の支えになりたいという気持ちを、心の片隅に持ち続けることと思います。

多様なセクターによる協働関係の構築の必要性

 佐久子育てわくわく団では、平成28年度に立ち上がった「佐久地域こども応援プラットフォーム」にも関わり、行政や専門機関、さまざまな市民団体とのつながりを持つことができました。しかし、子どもや子育て世代が安心して過ごせる居場所つくりには、まだまだ微力です。日常の子どもたちからの声、子育て世代からの声を原点として、行政や専門機関、地域住民や支援団体などの多様なセクターが、共に考え、共に学び、共に地域を支え合う協働関係を構築しなければなりません。縦割りだからとか、担当じゃないからということではなく、お互いを尊重し合い、それぞれの持ち味を活かして「緩やかなつながり」を持つことが重要です。そんな緩やかなつながりを持つことで、本当に必要な支援を行政や専門機関につなぐことも可能になってくるのです。おとなになったら恩返ししたいなと思ってもらえる地域を作っていきたいと思っています。


佐久子育てわくわく団の連絡先

佐久子育てわくわく団 事務局 小林恵理子

電話番号:080-6603-9094

メールアドレス:sakumirai100☆gmail.com

Facebook:さくこども食堂  さく 親子カフェ


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