子どもと共につくる地域 事例 5

地域挙げての「おもてなし」活動が、生徒・学生の学び・体験の場に

ウエルカム三才児プロジェクト 事務局長 太田 秋夫

太田さんの顔写真

 ウエルカム三才児プロジェクトは、三才駅へ記念写真を撮りに来訪する三才児ご家族の「おもてなし」活動を始めて、2019年夏で7年目に入ります。「三才の地を日本の子どもたちの聖地に」という大きなゴールを掲げてさまざまな取り組みをし、社会的な認知も高まってきました。

 土日曜日・祝日の行動で年間3,500組のファミリーとふれあい、いまでは年間来訪者数は推定2万人に達しています。「聖地」として注目されるようにとの願いが諸活動の根底にありますが、SNSや口コミ、マスコミの報道等で知った多くのみなさんがたくさんおいでになり、特に兄弟関係ではリピーターになっているのをみると、すでに「聖地」に近づいているのかもしれないという感じもします。我が子が3歳になったのを喜んで、時間とお金をかけて「三才の地」へ足を運ぶ人が全国にいるということは、地元住民として誇らしくもあり、また心を込めて「おもてなし」をしなければとも思います。

「まつり」運営を支えた生徒・学生のボランティア

 5回を重ねた「ウエルカム三才児まつり」は1万人の来場者を迎える規模のイベントに成長しました。長野市を中心とした子育てご家族に私たちが提唱する「聖地」の三才にお越しいただき、楽しい一日をプレゼントしたいとの趣旨で進めている取り組みです。「協働」の力による運営を特徴としており、節目の5回目 (2018年10月) は出演者も含め580名のボランティアが「まつり」を支えました。

 地域の自治組織の集合体である古里住民自治協議会をはじめ日赤奉仕団、民生児童委員、交通安全協会、アマチュア無線クラブなどの各種組織、個人的なボランティアなど多くの参画を得ていますが、学校との連携が強くなり、中学生が139名かけつけました (地元の3校) 。さらに高校生や高専、大学・短大のボランティアも多数にのぼり、生徒・学生が「まつり」の運営で大きな力を発揮しました。

 中学の美術部のみなさんは畳6畳分の布に絵を描き、来場した子どもたちの手形で完成させ、ステージのバックを飾りました (3年前から毎回) 。中学生ボランティアは受付、チケット売り場、遊びの各コーナ―などでおとなのサポートを受けながら前面に立って活動しました。来場の子どもたちや親御さんとふれあう最前線での活動です。小さな子どもたちと接すること、知らないおとなとの関りは中学生にとって「非日常」であり、「初めは緊張した」という者もたくさんいました。

 高校生はAC長野パルセイロの選手とともにサッカー教室 (幼児・小学生の各部) で教えたり、キッズ☆スポーツ天国のコーナーで竹馬やトランポリン、スイングスキップで遊ぶお手伝いをしたりで活躍。高専の学生はミニ新幹線の運行やふわふわでの安全管理などを担いました。

中学生と来場した子どもたちで作成したステージバックが飾られている様子

自分の成長を感じ取った中学生

 学校がまとめた中学生の感想をみると、「たくさんの人とふれあえて嬉しかった」「緊張しまくったけど、だんだん慣れた」「たくさんの子どもたちの笑顔を見ることができて元気をもらえた」「小さい子どもがかわいくて、がんばろうという気持ちになった」「あいさつをしたら笑顔で返してくれる人が多く嬉しかった」などの感想が寄せられています。多くの人が「来年もまたやりたい」と記しています。

中学生は自分なりにいろいろ考えてボランティアに取り組みました。感想文からそれが伝わってきます。

(手形アートした1年女子からの感想) 「小さい子に呼び掛けるときどうやって呼べばいいかわからないこともありました。でも、先輩の冷静な対応に驚きました。真似してやってみると上手に呼ぶことができました」

(2年男子からの感想) 「僕は人にうまく伝えることが不得手なほうで、正直三才児や幼児に対しておとなの対応ができるか不安だった。でも積極的に声をかけて苦手をなくす努力をした。すると『兄ちゃんありがとう』と言ってくれる子がたくさんいて、気持ちよくボランティアをすることができた。これからも人と人とをつなぐ会話を大切にし、言葉の力を養っていきたい」

(2年男子からの感想) 「自分は小さい子が好きなので楽しく話せました。小さい子と話したりふれ合ったりするときは話し方を変えなければならず疲れました。でも、小さな子は感情豊かに接してくるので新鮮な感じでとても楽しくふれ合えました。まったく知らないおとなと一緒に一日を過ごすことは慣れたことでなく緊張しました。小さい子とは真逆の意味で話し方や接し方を変えるので、普段できない体験ができ、これからおとなの人と関わるときに今回の体験を生かしていきたい」

(1年男子からの感想) 「 (イベントは) ボランティアをやってくれる人がたくさんいるから成り立つのだと改めて感じました。小学校の時は『ボランティアなんて参加しない』という気持ちが強かったけど、今回は積極的に参加しようと思いました。地域の人と楽しく交流できました。また機会があったら参加したいです」

(1年男子からの感想) 「チケット販売をやって、たくさんの人とコミュニケーションがとれてほんとうによかったと思います。募金箱を持って募金活動もできてよかったです。これはやってくださいと言われてやったわけでなく、自分たちで思いついてやりました。地域の人たちに『ありがとう』と言ってもらえました」

(1年女子からの感想) 「いろいろなところを回って大きな声で募金の呼びかけをしたら、たくさんの人が募金をしてくれました。なかには小さな子がお金を入れてくれることもあってうれしかったです。休憩中に会場の中を回っていたら、たくさんの親子が楽しそうにしていてうれしくなりました。たくさんの笑顔を見られて、ボランティアに参加してよかったと思いました」

(手形アートをした2年女子からの感想) 「大きな声で呼びかけたり、たくさん話したりと、いつもとは違うことをしたので殻を破れたと思う。自分が少し成長する良い機会になった」

(1年女子からの感想) 「今回のボランティアで人と話すこと、特に知らない人と話すことが少し楽になったような気がします。これからも、いろいろな人とコミュニケーションをとって将来に役立てていきたいです」

 中学生は「まつり」のボランティア活動を通してたくさんの学びがあったようです。小さな子どもとのふれあい、知らないおとなとの力を合わせた活動など、日々のなかで体験できないことがその中にあります。

 ボランティア活動によって中学生の心を揺り動かしたのは、楽しそうな会場の家族の笑顔と、「ありがとう」という感謝の言葉だったようです。

 「まつり」は三才の地で子育てご家族に一日楽しんでもらうことを意図して始めましたが、「協働」の輪が広がり中学生や高校生も運営スタッフとして加わるようになるなかで、10代の子どもたちの「成長」を促すという役割をも担うようになったのです。

 5回目の「まつり」では、地域に貢献できるイベントにしようと、県立こども病院への寄付、フードバンク、移動献血車による献血を企画に盛り込み、来場者に協力を訴えました。そうした取り組みの一翼をも中学生たちは担いました。

 小学生までは家族と楽しみ、中学生になったら今度は「おもてなし」の側に回る―という「まつり」の性格が明確になりました。

駅前活動も学生の学びの場に

 ながの協働ねっとの提唱で「地域まるごとキャンパス」という取り組みが始まりました。 プログラムを通して多くの学生が、校内では出会うことのない人や場や事に出会い、共に考え働くことで、「新しい自分」を発見し、「自分と地域の人たちとのつながり (関係性) 」を身近につくるきっかけにしてもらうもので、ウエルカム三才児プロジェクトもこの企画に賛同。2018年は7人の高校生・大学生を三才駅前の「おもてなし」活動で受け入れました。13回も出てくれた高校生もおり「人と接することを学びたかった」と話していました。

 三才駅前での活動も、「まつり」というイベントも生徒・学生が地域と関わり、自らの成長の糧にしている状況を、活動の新たな発展として受け止めています。


太田さんのプロフィール

太田秋夫 2013年の設立当初から事務局長。健康・生きがいづくり 開発財団認定 健康いきがいづくり アドバイザー。第9回 生きがい学会 学会賞受賞 (2018年)


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