子どもと共につくる地域 事例 4

ありのままの自分が大切にされる場所

子どもの支援・相談スペース「はぐルッポ」 西森 尚巳

ルッポくんのイラスト

1「はぐルッポ」の設立

 子どもの支援・相談スペース「はぐルッポ」は、さまざまな理由で、学校へ通うことができない子ども、学校へ行っていても苦しい思いをしている子どもに、居場所の提供、相談・学習支援などをしています。また、保護者の相談・支援も行なっています。

 不登校、不登校傾向で困っている子どもたちや保護者が多くいることを知って、学校とは違うコンセプトで、子どもたちがありのままの自分でいることができ、自由に遊んだり、何もしないでいることができることで、自分を取り戻していけるような居場所、保護者が気軽に相談ができる場所がほしいと考えました。学校と家の他にそんな隙間のような場所があってもいいのではないかと思ったのです。

 そこで、空いていた市の教職員住宅を借り、子どもの支援・相談スペース「はぐルッポ」を、2013年5月に開設しました。6畳の事務室と、続きの6畳2部屋の狭い平屋の一軒家です。

2 ある日のはぐルッポ

 1月9日水曜日、寒いけれど青空が広がりアルプスの山々がきれいに見えます。

 「ウィース」元気よくY君 (小5) が、開所時間の13時ぴったりに駆け込んできました。直行で奥の部屋に行くと、こたつにもぐりこみます。彼は学校へ行かなくなってからずっと部屋にこもっていましたが、テレビで「噂の保護者会 学校に行かないという選択」を見て、はぐルッポに来始めました。

 30分ほどしてD君 (高1) が来ました。彼は中学へは一切行けず 中学2年からはぐルッポに来ていました。高校生になっても気持ちが不安定で 学校が終わると来ています。Yくんとふたりでこたつでゲームをしたり 話したり楽しく過ごしています。

 続いて「こんにちは」と、お母さんと一緒にHさん (小4) がぬいぐるみを大事そうに抱えて入ってきました。彼女は小学2年の後半から「学校が怖い」と言って登校できなくなりました。彼女はさっさと奥の部屋に行って、こたつにあたりながら女の子の絵を描き始めました。そのうち押し入れの上段に作った部屋に入りこんで、座布団を何枚も重ねて「眠いー」とごろごろしています。

 「チワー!」っとMさん (中2) が来ました。M「ねぇ聞いてよ。漫画買ったんだよ。自分のお金で。もぉーめっちゃ萌えるのぉ」、私「見せて見せて」、M「ダメ、先生には刺激が強いから早すぎる」。友だちとうまくいかず、はぐルッポに来始めたときにはどうやったら死ねるかをずっと考えていたのに、今は「高校行きたいから勉強すっかなぁ」などと言い始めています。

はぐルッポの様子 1 (子どもが棚をのぞき込んでいる) はぐルッポの様子 2 (子どもたちがトランプをしている)

 こんなふうに、子どもたちがばらばらとやって来ます。今日はボルダリングや「はぐスポ (体育館で遊ぶ日) 」、「はぐ茶 (茶道の日) 」はないので、施設内でそれぞれが好きなことをして過ごしています。子どもを送ってきたRさん (小1) のお母さんは、担任の先生がわかってくれないと30分ほど相談していきました。

 その後、男子3人は奥の部屋でゲームをしながら攻略法を話して盛り上がっています。ひとりはギターを弾き始めました。女子2人はスタッフ2人とボードゲームをしています。ひとりがウノをやりたいと言い出し、ちょうどボランティアで来た信大生も交えて、スタッフも含め5人でウノが始まりました。ひとりで黙々と数独を解いている子もいれば、本棚に並んでいる「名探偵コナン」の漫画を読んでいる子もいます。

 学校帰りのAさん (小2) が来ました。来るとすぐ「ユーチューブで見たボンドスライム作りたい」と言ってひとりで作り始めました。見ていたRさんが「私も作りたいー」と言うと、「もう始めたからダメ」と言っていましたが、それでもRさんが作り始めるとAさんは「もっとゆっくり入れるんだよ」と世話をやきながら作っています。

 こんなふうに子どもたちはやりたいことをしていますが必要な時にはスタッフも呼ばれて一緒に遊びます。

 15時半ころになるとみんなでおやつを食べます。ほとんどスタッフが作りますが、時々手伝ってくれる子もいます。庭を畑にして野菜も作っていて、そこで収穫したものも並びます。たいていはお味噌汁とちょっとしたおかずとお菓子。家で食べてないのかと思うほどおかわりする子もいます。みんなと一緒に食べたくないSさん (中1) は事務室で食べています。

 おやつの後、子どもたちはまたそれぞれ遊びに戻りました。室内での遊びに飽きた子どもたちの一部は外で遊びたいと、寒いのに女鳥羽川の河川敷へ出ていきます。鬼ごっこをしたり探検したりします。外へ行くときはスタッフが必ずついていきます。Nさん (中2) は部活だけには出ると4時過ぎに学校へ行きました。

 17時頃、「こんにちは」とKさん (中3) が来ました。K「バスで来た」、スタッフ「すごいねぇ、よく来たねぇ」。あと1時間で終わりなのに、それでも来たいのだと言ってくれます。

 もう外は真っ暗です。18時近くなるとバタバタとみんな帰って行きました。ほとんどの子どもは保護者が迎えに来ますが、M君 (高3) は自転車でH君 (小3) はおばあちゃんとバスで、D君は電車で帰りました。Aさんはお母さんが迎えに来なくて、電話しても通じず、家が近いのでスタッフが歩いて家まで送りました。

 子どもが帰った後、スタッフは今日のそれぞれの子どもの記録をまとめ、19時25分に閉所しました。

3 子どもの様子 親の様子

 このように自分で好きなことをして過ごしている子どもたちですが、来始めたころは多くの子どもが、暗い顔をして笑顔もありませんでした。死ぬからいいと言っている子どもさえいました。

 そんな子どもたちが、「何々をします・こうしたほうがいい・これはダメ」というような指導や強制がない環境で、それぞれが自分の好きなことをしているうちに少しずつ変わっていきます。無気力で弱々しく見えた子どもたちが、自分で考えて行動するようになります。そして、まるでエネルギーがチャージされたかのように次第に元気になっていき、これからの自分についても考えることができるようになっていきます。

 また、多くの保護者は、子どもに登校を強要してしまったり、自分の育て方がいけないと言われているのではないかと思い悩んだり、不登校の先にはもう道が無いのではと落ち込んだりしています。しかし、保護者が子どもの今の状態を必要な時間だと認めることができるようになると、子どもは変わっていきます。逆に、元気になった子どもの様子を見ることで、保護者もまた変わってきます。どちらにしても保護者自身も変わることが必要だと感じます。

4 まとめ

 「はぐルッポ」は学校へ行くことを目的としていません。その子がエネルギーをためて自分を取り戻し、自分で考え自分で決めて、その一歩を踏み出すためのエネルギーを育むお手伝いをしています。そのため、当初はなかなか学校現場には理解してもらえないこともありましたが、現在ははぐルッポは出席扱いになり、子どもの状況を共有できるようになってきました。子どもの様子を教育委員会の不登校対応の先生や学校の先生などが見に来てくれたり、はぐルッポも支援会議に呼んでいただけるようになってきました。高校や中学受験の面接練習も、教育委員会の主事などにお願いしてやってもらいました。また、スタッフ会議には行政から毎回参加してもらっています。

 スタッフが大事にしていることは、誰もがありのままの自分でいられて、言いたいことが言え、安心して失敗することのできる、そんな環境を保障すること、そして、指導やコントロールではなく、子どもから必要とされたときにサポートするということ、そういう居場所を子どもたちと一緒に作っていくことです。

 「はぐルッポに行くといつも心がほっこりします。もう中学も卒業しますがたまに顔出させてください!」今年の年賀状にある子が書いてくれました。私たちのこころもほっこりしました。何をしようというのでもなく心が「ほっこり」する場所、それがはぐルッポの願いです。


はぐルッポの連絡先

子どもの支援・相談スペース「はぐルッポ」

〒390-0802 松本市旭 3-2-21 Tel 0263-31-3373

松本市役所こども部こども育成課 Tel 0263-32-3261

運営団体:子育てコミュニティサイトプロジェクト「はぐまつ」


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