子どもと共につくる地域 事例 3
長野県南佐久郡小海町は、人口4,700人、近隣の南相木村と北相木村との中学校組合立の中学校が一つの小さな町。当然、少子高齢化問題は切実な課題です。ここにどのようにぷれジョブが生まれたか…それは、蒔かれたアマモの種がようやく芽を出して稚魚がその森に遊びに来た小さな物語から始まります。
2017年10月、地域の中心的な病院である佐久総合病院の分院祭で、ぷれジョブ創始者の西幸代さんの講演会を企画することができました。
演題は【「ありがとう」の循環 少子・高齢化時代の地域のデザイン】。病院で行なえたこともあり、村長をはじめ、病院関係者、社会福祉協議会等、幅広くいろいろな立場の方に聴いていただくことができました。
年が明けた2018年1月から、まだ子どもはいないながらも定例会が始まり、そして、ついに7月から中学生男子A君のぷれジョブが始まりました。
【西さんを招いて開催した講演会の案内】
小海で初めてのぷれジョブも12月で終了。A君の書いた「定例会へ来てください」の手紙効果もあり、12人の集う賑やかな定例会になりました。
以下は、定例会で参加者から寄せられた感想です。
(子どもからの感想) 楽しい。また、ここでやりたい。
(サポーター4名からの感想) 積極的な姿でやっていてすごい。1か月の変化がすごい。子どもってこんなに成長するんですね。終わるのが寂しい。
(企業からの感想) ドリンクはお任せでやれていた。弁当作りは雑だったが、今はきれいにできるようになった。次々と教えがいがあって、楽しくやらせてもらった。クルーの一員だと思っている。
(保護者からの感想) とてもいい経験になっている。他の店でフェイスあわせをしてしまうところだった。毎回行くのを楽しみにしている。2時間やりたいと言っている。
(学校からの感想) 世界を広げているんだな (校長) 。丁寧にできているようで、驚いた (特担) 。
(地域からの感想) スタートの時には、Aさんも店長さんもドキドキの様子が伝わってきたが、今日の様子は親子のようだ。
ぷれジョブは、地域で生活する市民が、年齢や立場を超えて「違ったまま混ざる」「考えを同じにしなくてよい」活動です。同種の障害者や、利益を共有する者どうしが集まる関係ではなく、常に未知の参加者が参加できる余白を残します。いつも不安定な状態ですが、ゆるいつながりなので維持できるのです。
障害のある子どもが1週間に1回、地域の支援者に付き添われてはたらく体験をします。同じ支援者と半年続け、次の職場に行きます。小5から高3までの8年間繰り返すことにより日常生活になっていくこの活動を地域の中に仕組むことで起きつつあることは、
● 子どもの変化
地域の人々に「ありがとう」といわれることが多くなり自信を回復する。親離れ して、自分の気持ちが出せるようになる。失敗しても大丈夫だよと言ってくれる人がいる寛容な居場所が、次への挑戦を促す。
● 企業の変化
ゆっくりと時間をかけて負担は少なく、いろいろな障害に対して理解が進む。BEING (存在の価値) を大切にした企業風土が醸成されていく。
● 地域住民の変化
子どもの変化に生きがいを感じたり、子どもごとに違う特徴に気づいたりして、障害の理解が進む。支援者自身が地域の人々とつながっていく。
● 保護者の変化
子どもが、自ら地域の人々とかかわる姿を見て、安心する。子離れ して一人の人として1時間を過ごせる。
● 公共の再生
子ども・地域住民・学校・企業の個々の目に見える変化に関心が行きがちであるが、「あいだ」すなわち、地域の住民の緩やかなつながり、地域に起きている出来事や人々に関心を持つ雰囲気が大切である。海岸に生えていたアマモの森が再生していくということは、ぷれジョブで言えば、子どもたちの活動を見たことがある人や名前を知っている人が自然と増えるということである。アマモが増えれば、「自分のできることを、できる時に地域のために小さく差し出そうかな」という小さなおせっかいができる人が自然と生まれ始める。
障害の有る無しにかかわらず、学齢期を過ぎ成人期を迎えてもなお、「個」の確立が十分にできず、8 0 5 0問題をはじめさまざまな社会的問題につながる課題が日本中に噴出しています。学齢期に、対人関係のつまずきや学力不振、いじめ、あるいは障害特性に起因するストレス耐性の弱さからくるものも多いのが現実です。
ぷれジョブをとおして、社会的に弱い立場に置かれた障害のある子どもたちが自分の意思をはっきりと表明する風景を地域社会の中に仕組むことができれば、これまでになかった「自立促進のモデル」の提示になります。
誰にも、思春期に親の保護から離れて他者と関係を結ぶ体験を重ねることが必要で、そのためには、子どもをあるがままの姿で地域に出すことや、子どもと離れるコトに対して恐れを持つ障害のある子どもの保護者が、子どもを手放さなければなりません。保護者が温かな関係の網の目の中で、かつて地域社会や自身が取り込んできた偏見や差別の悲しみを癒しつつ、安心して子どもから離れて地域の人々と交流する姿に変われば、多くの親にとっての「子離れ のモデル」となり『この地域で生きていけそう、大丈夫』という空気が少しずつ生まれます。
ぷれジョブこうみは、共同代表4名による、20名ほどのとてもゆるい関係ですが、まだ見ぬ新しい未知の参加者に対して、いつも居場所を開いています。「できる人が、できる時に、できることをする」という、対話を基としたゆるさでつながる空気から、参加者各自の意思を自由に示せるようになり、遠慮なく断ることのできる関係がつくられています。こうした「ゆるくて、たくさんあるつながり」が、自殺希少地域・防災減災、認知症に理解のある地域、など昨今の研究で示されている「いのちを助けるつながり」をつくる具体的な方法となるのです。
現在ぷれジョブは23都府県に拡がり、全国各地で活動する仲間が「全国ぷれジョブ連絡協議会」という任意団体を組織して、ゆるく横のつながりを保ってきました。
17年間の紆余曲折を経て、将来もこの活動を永続的に運営するための法人格取得を数年かけて議論し、「平成」の終りを迎えて、一般社団法人化の手続き中です。
興味のある方は、purejob2003☆gmail.com まで連絡していただければ、テキストなどの提供・セミナーの情報を知ることができます。
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