子どもと共につくる地域 事例 2

松本市子どもの未来応援指針の策定と居場所づくりの展開

松本市こども福祉課 山本 修平

松本市のマスコットキャラクターのアルプちゃんのイラスト

はじめに

 平成20年に発生したリーマンショックから10年あまりが経過しましたが、時期を同じくして注目を集めた「子どもの貧困」問題については、必ずしも景気の回復と連動することなく、地域に存在する問題としてさまざまなメディアで取り上げられています。

 こうした状況を受け、本市では平成27年度から部局横断による庁内会議を立ち上げ、この問題に対する基礎自治体としての在り方を模索してきました。

 また、一昨年度は、松本市内のひとり親家庭を対象とした調査を行ない、実態の把握、分析を進めるとともに、すでに市内でさまざまな活動に取り組む方々との意見交換を行なってきました。このような取り組みから見えてきた課題に対し、市の考えを明示するものとして、平成29年4月に「松本市子どもの未来応援指針」を策定しました。

指針策定にあたって

 本市では、「子どもの貧困対策の推進に関する法律」の施行前である平成25年4月に、子どもを主語としたまちづくりをすすめるため「松本市子どもの権利に関する条例」を制定しています。

 条例では、「子どもは、生まれながらにして、一人の人間として尊重されるかけがえのない存在」であるとして、市全体で子どもの育ちを支えていくことを謳っています。

 この条例の第3章では、「子どもの生活の場での権利の保障と子どもの支援者の支援」として、『子どもの安全と安心』、『家庭における権利の保障と支援』、『育ち学ぶ施設における権利の保障と支援』、『地域における権利の保障と支援』の4つの視点で取り組みに努めることを明記しています。

 こうした条例の考えに基づき、この指針では、すべての子どもが自らの意志で未来を選択できる環境を整えることを目指して、市が取り組むべき施策をまとめています。

「子どもの貧困」問題への対応方針

 本市では、実情に即した取り組みを進める上で、前述のひとり親家庭を対象とした調査も含め、各種の実態調査を行ないました。この結果から見えてきたのは、家庭の経済的困窮にかかわらず、核家族化の進展や雇用労働環境の変化などを背景に、子どもたちがその成育環境において、少なからず心配な状況に置かれ、子どもの権利が保障されていない状況でした。

 こうした調査結果や条例に係る取り組みの視点から、本市における「子どもの貧困」対策は、「子どもの未来応援」のための取り組みとして、経済的困窮への対策に限定することなく、すべての子どもたちを取り巻く成育環境が悪化した状態 (心の貧困、経験の貧困、つながりの貧困、文化の貧困など) を含め、その改善を目指すこととしました。

 また、条例に基づく「子どもにやさしいまちづくり」の推進においては、子どもの自己肯定感を高めることを大きな目標のひとつとしていますが、貧困の連鎖を断つうえでも、子どもが自分の未来をあきらめてしまうことがないよう、自己肯定感を高めていくことが非常に大切だと考えました。

本市の指針では、下図に示された状態を「子どもの貧困」と捉え施策を進めることとします。

子どもの貧困の模式図

子どもの未来応援に係る重点施策

 本市の子どもの未来応援については、複数事業の総合展開により全庁的に取り組むこととしていますが、中でも食事提供を伴う子どもの居場所の拡大は、条例における4つの視点での取り組みを推進する施策と位置づけ、学習支援会場の拡大とともに特に力を入れることとしました。

 子どもが自らの意志で歩いて参加できる居場所の拡大は、家庭や学校における「たて」「よこ」の人間関係に加え、地域の人たちや学生ボランティアの方々などとの新たな人間関係を構築する土台となるとともに、地域コミュニティ再生の礎となりうるものです。

 こうした居場所では、会話をしながらの食事、さまざまな世代の交流による、教え教えられる体験活動、学習支援などの営みが行なわれ、子どもたちが親や友だち以外の他者と多様なつながりを持つ経験が発生します。

 こうした経験は、子どもたちの自分への信頼、自信へとつながり、子どもの自己肯定感を保持あるいは高める上で、他に代えがたい資源となると考えています。

子どもの居場所づくり開催状況

 子どもたちの生きる力を育む居場所づくりの拡大に向けて、地域で活動に取り組んでいる団体への財政支援として、指針の策定に合わせて市独自の交付金制度を創設し運用しています。

 こうした地域の居場所では、地域のおとなによって地域の子どもに食事と学習、団らんの場が提供されており、現時点で市内に10の会場が開設されています。

 各会場では、概ね1か月に1回、2時間以上の居場所が開設され、多くのおとなと子ども、ボランティアが参加する営みとなっています。

※表 始め

  実施会場 会場所在地 実施団体

実施回数

1

寿田町公民館 寿北 7-6-1 寿田町町会 月1回

2

並柳団地集会所 並柳 4-5-3 並柳団地町会 月4回

3

島内公民館

島内 4970-1

愛ランド島内「おらんちdeランチ」実行委員会

月1回

4

寿台児童館 寿台 6-2-10

NPO法人ワーカーズコープ松本事業所

月2回

5

中山児童センター

中山 3532-1

NPO法人ワーカーズコープ松本事業所

月2回

6

ホットライン信州松本事務所

寿北 5-4-28-1

NPOホットライン信州

月1回

7

海鮮どん八 深志 2-3-25

NPOホットライン信州

月1回

8

つどい場ふらっと (並柳団地商店街)

並柳 4-5-1

並柳団地まちづくり協議会

月6回

9

松本協立病院歯科センター

巾上 9-26 反貧困セーフティーネット・アルプス 月1回

10

波田公民館

波田 4417-1

波田コミュニティデザインクラブ 月1回

(平成31年3月31日現在)

※表 終わり


居場所に参加した子どもたちからの感想

● みんなでごはんを食べたりみんなで楽しく勉強ができてよかったです。

● じぶんで来年どのぎょうじが考えられたのがうれしかった。

● 算数のけいさんが自信がつくようになった。

● ともだちじゃない人とおしゃべりできたし、みんなとなかよくできた。

● 自信がなくて手があげられなかったけど、少しあげられるようになった。

居場所に参加した子どもたちにとったアンケート調査結果

・参加回数

 

初めて

2回目

3回より多い

平成29年度

2人

0人

54人

平成30年度

6人

7人

103人

・次回の参加希望、居場所の継続希望

 

来たいと思う・続いてほしい

来たくない・なくてもいい

わからない

平成29年度

41人

3人

12人

平成30年度

100人

1人

9人

・居場所に参加して初めて出会った人の有無

 

いる

いない

わからない

平成29年度

34人

9人

13人

平成30年度

66人

29人

19人

 

・居場所に参加してうれしかったこと、自分に自信がついたことの有無

 

あった

なかった

わからない

平成29年度

33人

6人

17人

平成30年度

71人

10人

31人

今後の展開について

 今後も、市内全域の子どもが自分の意志で歩いて参加できる場所に居場所が拡大していくことを目指して交付金制度の拡充を図ります。また、担い手である団体の皆さんと連携を強め、事業報告会を開催するなどして、この事業の趣旨を広く一般の方に周知しながら、官民協働で子どもたちが活きいきと過ごせる居場所づくりを進めていきたいと考えています。


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