子どもの育ちと食事・調理・食文化

公立大学法人長野県立大学 健康発達学部 食健康学科長 教授 中澤 弥子

中澤さんの顔写真

 2018年4月より長野県立大学がスタートし、長野県短期大学を兼務しながら、管理栄養士・栄養士養成のため、調理学・調理実習を主に担当しています。長野県内や海外で食文化や学校給食の調査研究に取り組む一方、いろいろなご縁で授業の一環として食育活動を行なっています。これらの食育活動のいくつかをご紹介します。

短期大学生による小学生の田植え体験のサポート

 2018年5月29日に、栄養士養成課程で学ぶ健康栄養専攻2年生が、小学2年生の田植え体験のサポートを長野市鬼無里地区で行ない、その後、凍み大根の煮物や具だくさんの味噌汁など、地域の方によるたくさんの心のこもった手づくり郷土料理を昼食にいただきました。

田植え体験の様子

 短大生から田植えについては、「はじめは田んぼに入るのを嫌がる小学生もいたが、田植えを始めると一生懸命に稲を植えていてうれしく感じた」、「小学生の元気で無邪気な笑顔や真剣に田植えをしている姿を見て自分自身も元気をもらえた。小学生と触れ合う機会が少ない私たちが、この体験を通して自分自身の成長を感じ、勉強になったことがたくさんあった」などの感想が得られました。昼食の郷土料理については、「鬼無里の凍み大根は、口の中でとろけるように柔らかく、とてもおいしかった」、「なかなか食べる機会のない鄕土料理をいろいろ食べることができて良かった」などの感想が述べられ、アンケートの結果、ほぼ全員から「とても充実した体験になった」という回答が得られました。農業体験の受け入れのサポートを学生が行なう事により、地域の方の負担も軽減され、学生にとっても小学生をサポートすることでより積極的に田植えに取り組み、小学生や地域の方との交流からたくさんのことを学ぶことができたように思います。

短期大学生による保育園児への食育活動の実践

 保育士・幼稚園教諭の養成課程で学ぶ幼児教育学科2年生が、2019年1月24日に済生会長野保育園 (長野市) の協力を得て、園児を対象に食をテーマにした発表を行ないました。4グループに分かれ、

 ・カレーライスを作ろう!

 ・好き嫌いをなくそう!

 ・長野の食べもの おやき

 ・桃太郎に教わろう かむことの大切さ

というテーマで、食べ物に親しんでもらい、興味を持ってもらうことを目的に考えた紙芝居、歌、寸劇やクイズを組み合わせて発表しました。

 学生は園児に教えるために、主体的に食べ物の栄養やはたらきについて学び、わかりやすく伝えるために工夫を凝らし、実践したことで、食についての知識や興味・関心を深めることができ、かつ、子どもたちに伝える楽しさや難しさを実感できたように思います。

おやき作りについての発表の様子

食文化の伝承の取り組み:大学生のおやき作り体験

 2018年9月21日に、管理栄養士養成課程で学ぶ長野県立大学の食健康学科1年生が、須坂市でおやき作り体験、塩屋醸造の見学と須坂の町並み散策を行ないました。この体験学習は、須坂市が「蔵の町並みキャンパス」として蔵の町「須坂」をフィールドに学生等が研究交流する中で、21世紀を担う知の創出と新たな情報の発信地として賑わいあるまちづくりを進めるという目的で実施している事業の助成を受け行ないました。

 おやき作り体験では、丸茄子、切り干し大根、野菜ミックス、さつまいもと小豆あんの4種類をグループに分かれて作りました。地域の方からおやきの作りのコツや工夫だけでなく、歴史や文化などいろいろな話をうかがい、その後、できたてのおやきをみんなでおいしくいただきました。

おやき作りの様子

 アンケートの結果、県内の学生からは、「おやきは身近なものだが作るのは初めてで貴重な経験になった」、「市販のおやきより美味しく感じた」、「祖母と一緒におやきを作ったときとは違う作業もあった」などの感想が得られ、県外の学生からは、「おやきの具といえば野沢菜くらいしか知らなかったが他の種類も知ることができて良かった」、「その日の気温や湿度によって混ぜる水の量を変えていることに驚いた」などの感想が得られました。いずれもおやきの特徴を実感して理解し、楽しくおいしく経験し、長野県の郷土料理に対して興味・関心を高めることができたようでした。

 また、文化・文政年創業時から伝わる味噌蔵と昔ながらの大桶を使って醸造し、伝統の味を守り続けている塩屋醸造で、信州の名工である小林秀久氏に丁寧な説明や味噌造りへの思いをうかがいながら、蔵の見学と味噌汁・甘酒の試飲を行ないました。

 アンケートの結果、「材料を混ぜた後は菌に任せるので一見簡単そうだが、蔵の管理が非常に重要であり、蔵の管理によって変わらない味の味噌を作ることができることを実感した」、「味噌蔵内の壁や柱などに菌がついていることに驚いた」、「蔵の中は味噌や醤油の香りがし、長い年月をかけて醸造を行なっているということを肌で感じることができたなどの感想が得られました。また、参加者全員が「参加して良かったと回答しており、風情ある町並みを歩いたり伝統的な建物内を見学したりすることで、須坂市の歴史についても興味を持つことができたという回答が多く、有意義な機会であったことがうかがわれました。

食文化の伝承の取り組み:高校生のざざ虫漁体験

 2019年1月26日に、伊那谷の名物「ざざ虫」について若い世代にも関心を持ってもらおうと、上伊那地域振興局の主催で、地域の高校生に昔ながらのざざ虫漁を体験してもらう催しが天竜川で行なわれ、私も参加させていただきました。

ざざ虫漁体験の様子

 ざざ虫漁師の指導の下、鍬で川の石をずらし、足で水底を踏みながら石の下にいるざざ虫を四つ手網と呼ばれる網に流れ込ませて捕獲する漁のやり方を体験しました。その後、漁師が作ったざざ虫のつくだ煮を試食し、漁で捕ったざざ虫を種類別に分類しました。高校生は「力がいる仕事で大変だったが、楽しかった。また体験したい」と話しており、ざざ虫漁師の多くが高齢となり、数も減少しているそうで、次の世代に昆虫食文化を伝えるために、このような体験イベントが重要であることを感じました。

 信州の自然や食文化の豊かさと地域のみなさんのご協力のおかげで、食を通した活動は、子どもたちに想像以上の学びや癒しを与え、心身ともに支える大切なかけがえのない経験になるように感じています。今後とも、地域のみなさんと共に、試行錯誤しながら食育活動に積極的に取り組もうと希望しています。


次の記事へのリンク 特集 1 の次の記事を読む

他の記事へのリンク 特集 1 の目次へ戻る


トップページへのリンク トップページに戻る