学力、生きる力の土台となる読書

長野県子どもを守る会 馬島 直樹

馬島さんの顔写真

子どもたちの「学力、生きる力」の形成のためには、子ども期にその土台となる「言語能力」と豊かな「生活体験」が必要です。ここでは「言語能力」の形成にかかわる読書について書いてみたいと思います。

読書と学力

 本をよく読む子どもは学力が身につきます。学力のある子どもが本をよく読むというより、よく本を読む子どもが「言語能力」が高くなって学力が身につくのです。かつて先輩の先生から聞いた話ですが、小学校で3+4のような計算を、指を使ってまごまごしていた子どもが、ある日漫画を見てフフッと笑ったのを見て、漫画本を買ってやったら読み始め、何冊も読むようになり、やがて漫画でない本、絵の少ない物語も読めるようになって、成績が全般に向上し、中学校では分厚い本を読みとおし、希望どおりに高校、大学へ進学し、小学校の先生を驚かせたということです。

 政治学者として有名な姜尚中さんは高校時代に家に「ひきこもり」、出席日数が足りず、3年生への進級も危うかったのですが、父母が廃品回収業で家に寄せられた古書が多く、そのなかから好きな本を選び総合雑誌や歴史書、文学作品を乱読し、夏目漱石の作品にも親しみ、大学に行きたいと思うようになって、一浪の後早稲田大学政経学部に進学、同大学院の政治学研究科 (博士課程) を修了しました。 (現在東京大学名誉教授)

 読書好きになり、読書量が増えると語彙が豊かになり、読解力、思考力、表現力などの「言語能力」が高まり、従って学力が形成されると思われます。

子どもの読書活動の推進

 近年、スマホやタブレットが普及する中で本が読まれなくなり、閉店せざるを得ない本屋が増えています。国際的な学力調査で問いの文が読みとれないなど、日本の子どもの「言語能力」、学力低下が心配されています。青年たちは外国の青年たちと時事問題について対等に討議できないようです。また、成人式を迎えても選挙を棄権する者が多いことが、問題になっています。

 このような情況で、日本の未来が憂慮され、国会は2001年に議員立法で「子どもの読書活動の推進に関する法律」を制定しました。この法律はその基本理念を第2条で次のように述べています。

 「子ども (おおむね18歳以下の者をいう。) の読書活動は、子どもが、言葉を学び、感性を磨き、表現力を高め、想像力を豊かなものにし、人生をより深く生きる力を身に付けていく上に欠くことのできないものであることにかんがみ、すべての子どもがあらゆる機会とあらゆる場所において自主的に読書活動を行なうことができるよう、積極的にそのための環境の整備が推進されなければならない。」

 この法律に基づいて2002年から国、県、市町村の各レベルで「子どもの読書活動推進計画」の方策を具体化しています。

 たとえば飯綱町では保健福祉課と公民館が協力し、乳児の4か月検診時にファーストブック (セカンド、サードブック) として絵本を手渡しています。就学前児童が多く集まる子育て支援センターや放課後児童クラブでは絵本をそろえ、読むことや借りることができるようにし、絵本の読み聞かせやわらべ唄遊びを定期的に行なっています。また、公民館の図書室と中学校の図書館とが連携し、町民と中学生に共通の図書館利用カードで本を貸し出しています。町では学校と保育園とが協力しながらノーメディアデー、ノーゲームデーを設けたり、「おすすめ本リスト」を作成し、各家庭の本棚づくりや学級文庫の充実を図ったりしています。また、子どもと本とを橋渡しするおとなを増やすために読書ボランティア養成講座等を開催し、読書を通したコミュニティ構築を目指しています。

 以上のような取り組みは各市町村で行なわれ、成果が出はじめていると思われます。

子どもの本の読み聞かせ

 絵本の読み聞かせは子どもを読書好きにします。絵本の読み聞かせは、絵を見ながら耳で聞く読書です。家庭で一人対一人の場合と保育園などで集団で聞く場合とがありますが、いずれも子どもは集中してよく聞き、読み手に親近感を深めてくれます。特に家庭での場合、読み手と子どもが一体になり、例えば『いないいないばあ』では子どもが「ばあっ」と声を出してくれます。

 読み聞かせで大事なことは、すらすら読むのではなく、一字一字、一音一音をはっきり読み、ことばを子どもの耳に入れること。同じ本を繰り返し読むのもよく、子どもは物語を記憶し、語彙を増やしていきます。

 語彙が増え、文字を読めるようになったら絵本の段落ごとに子どもと交代で音読すると楽しくなり、上手に読めたとほめると一層本好きになり、次第にひとり読みをするようになります。

読書離れ

 小・中学生の課題は自分で本を読む楽しさを覚えることですが、学年が上がるにつれて本を読む子どもと読まない子どもの二極化が見られます。本離れは小学校3・4年生のころと中学生になった時からのようです。

 小学校3・4年生は絵本の読み聞かせがなくなり、ひとり読みの習慣ができていない子どもは本から遠ざかってしまいます。本離れを防ぐためには3年生以上でも読み聞かせを続けながら学級文庫や図書館の本の紹介をしてほしいと思います。

 中学生なっての読書離れは、勉強や部活などで忙しくなり、読書をする時間の確保が難しくなる上に、スマホを長時間使うようになるためです。せっかく身についた読書習慣を失わせないためには中学生の生活全般を見直さなければなりません。

読書の習慣化、領域の拡大

 子どもを読書好きにするために、家族で誰かが読んで感動した本を話題にしたいものです。

 私は小学校5年生の時に4歳年上の兄が持っていた『ああ無情』 (ユーゴーのレ・ミゼラブル) を読み、自分が一段上へ成長したような気がしました。

 親が子ども同伴で図書館へ本を借りに行くのも好ましいと思います。先日、夕方に長野市立図書館で父子が10冊ほどの本を借りたのを見て「何年生?」と話しかけたら、2年生でした。「こんなにたくさん読めるなんてえらいね」とほめたら嬉しそうでした。

 子どもが物語 (小説) 以外の科学、歴史などの本に興味を示したら家族も関心を示し、図鑑なども購入できたらコミュニケーションがひろがります。

 新聞を読むのも読書です。子ども欄、投書欄、ニュースの写真などを見ながら家族で話題にし、時事問題に関心を深めることができます。

漫画本の役割

 文章をひとりで読む普通の読書への移行には個人差があり、小学校に入って字が読めるようになってもたどたどしい読み方では物語を読んで感動するところまではいきません。そこでこの間に読みやすく子どもを引き付ける漫画本があります。

 漫画は絵がコマ割りされて、いくつものコマの連続の中に簡潔明瞭なセリフがあり、感性豊かに物語が展開され、いわゆる漫画力で子どもを引きつけます。心を育てる名作もあり、親子で楽しむ時期があっていいと思います。

生きる力につながる愛読書

 最近、『君たちはどう生きるか』 (吉野源三郎著) と『漫画 君たちはどう生きるか』 (原作 吉野源三郎、漫画 羽賀翔一) がベストセラーになりました。この本の原作の初版は1937 (昭和12) 年です。アジア太平洋戦争の戦時中、旧制中学校2年生の時、東京で空襲を受け、疎開して来たY君の焼け残った本の中から私はこの初版本を借りて読みました。この本はコぺル君というあだ名の中学2年生が自分の身の周りに起きる差別や友情、悩みについて、母の弟であるおじさんに相談すると、おじさんはもののみかた、人生や社会のみかたについてノートに書いてくれる、ヒューマニズムにつらぬかれた若い人向けの人生論です。私はいい本だなあと思うと共に、Y君を親友にしたいと思いました。

 読書をして愛読書と言える本にめぐり会えるのは幸運であり、それは人間らしく生きるのに役立つと思います。


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