子どもの引きこもりと不登校に隠れた心理的背景

癒しの空間まごころ 五十嵐 美智恵

五十嵐さんの顔写真

心の閉鎖までの長い道のり

 子どもたちが成長していく過程では、心がどのように働き、何を学びながら成長していっているのでしょうか。一般的には、幼児期から小学校を通過し、中学校から高校、大学、専門学校をいずれ通過し、社会に旅立って何事もなく成長していければ、どんなに良いことでしょうか。そしてすべての子どもたちが何事もなくおとなの仲間入りができ、一人ひとりが自分の道を切り開けたらどんなに素晴らしいことでしょうか。

 しかし実状は、子どもの大切な成長段階で、おとなに成長するまでの道のり、今を歩もうとする道をストップさせ、「不登校」「ひきこもり」、いわゆる心の閉鎖への道を選択している子どもたちが、実はどれほど多く増えているかの実際を、私はカウンセラーの現場を通して多くを目の当たりにしてきています。

 では何故これほどまでに「不登校」「ひきこもり」が増えているのでしょうか。心の閉鎖を選択した子どもたちを、親や学校の先生、関わる周りの人たちがどれだけ理解しているのでしょうか。きっと何故そうなってしまったのか、隠れた真の心の思いまでは理解されていないのではないでしょうか。

子どもの「立場」、おとなの「立場」

 目の前に起きている出来事に注目されることがあっても、実はそこに至るまでの長い間の我慢や自分の気持ちを溜め込み、抑圧しています。それによって無意識にいい子を演じてNOと言えなくなったり、親や周りの言葉・態度に敏感に顔色を窺ったり、何らかの特性タイプによって考え方がうまくついていけなかったり、発達障害などを理解してもらえなかったりと、さまざまな要因が、実はたくさん心の背景に隠されている場合がとても多いと、現場を通して痛感してきました。また、周囲のおとなのさまざまな関わり方と子どもたちの捉え方や受け止め方が、気にしないで前に進んでいける子どもと、一つの出来事がきっかけとなって人とうまくコミュニケーションがとれなくなってしまう子どもでは、学習の仕方で考え方の選択する道は分かれてしまいます。

 しかし、すべての子どもたちの捉え方で共通する点が一つあります。それは子どもの「立場」です。性格や考え方は違っても、子どもの立場は親や関わってくれる人たちの立場から発信される言葉や態度・しぐさ・対応によって、子どもたちの立場を「まずは受け止めてもらえる・否定しない・わかって貰えた、認められた」と実感できた時の喜びが、すべての子どもの成長につながっていると実感してきました。一番のベースとなる「受け止めて貰えた・否定されなかった・わかって貰えた」と一つでも感じ取れて、喜び・安心感が少しでも増えれば、子どもたちの隠れた心の背景もストップさせることなく、頑張って歩いていけるのです。

心を閉ざしてしまう要因

 ではなぜ子どもたちの立場が尊重されないのでしょうか。そこには親の立場や、関わってくれる人たちの立場の発信のされ方が、実は大きく影響していることが多いのだと現場を通して痛感してきました。そこで親の立場や関わってくれる人からの影響を、子ども本人がマイナスに受け止めることによって、子どもたちに心をストップさせてしまう、閉鎖してしまう、さまざまな要因を表にあげてみましょう。

① マイナスのスキンシップ

無条件に抱きしめたり寄り添うことができない。

笑顔で笑ったり、目を合わせて大丈夫だよと安心を与える表現ができない (ストローク・愛情表現がない) 。 

② マイナスのストロークの関わり方

子どもに喜びを与えられない言い方・態度・しぐさになりがち (感情的になりやすくなる) 。常に、何かできないと良いおとなになれないなど、条件を付けて比較してしまう。

③ 無関心

マイナス的態度になりやすく、意識を向けてあげられない。その子の気持ちに寄り添えない。

現状に目を向けないでそらす。 

向き合わないで放置したり、子どものお願いごとなどはいつも後回しにしてしまう。

④ マイナス過観症

極端に束縛してしまう。レールを敷いてああした方がいいよ・こうした方がいいよと誘導してしまう。

⑤ マイナス過保護

良かれと思ってすべてに手を出してしまう。

本人に任せられない。

先回りして本人に任せてあげられなくなる。

⑥ 過度な期待と過度な比較

これではだめ、あの人みたいにもっと頑張ればあなたは一番になれるからといろいろさせてしまう。

あの子のように、あんな子と仲よくしたらダメになるからダメという。

⑦ ルール

決めたルール以外は認めない。

決めたことがベースになって押し付けてしまう。

⑧ レッテルを貼る

人と比較をしてできていないとダメ出ししたり、もっと頑張らせたりしてしまう。

⑨ 無言のままスルーする

子どもの言いなりになってしまい、正しいこと間違ったことをちゃんと伝えられずに、顔色を窺ったり物でご機嫌をとったりして、その子の気持ちとちゃんと向き合って話し合うことができない。

⑩ 虚勢を張る

その子の言うことに耳を傾けようとしない。

おとなの立場を押し付けてしまう。

強がってしまい謝れない。

⑪ 否定否認

感情的になってしまい受け入れたり受け止めたりすることがなかなかできない。

言い訳をすることに感情的な言葉で対応してしまう。

⑫ 比較する

周囲であったり兄弟であったりと、おとなの立場でその子本人と比較し無意識に区別したりで、言動が極端になってしまう。

態度・言葉・押し付けなど、何かあるたびに出てしまう。

⑬ 理解

その子の性格、その子の持っている特性・発達障害などを理解しているようで実はおとなの立場だけが先行し、やればできる、治ると思い込んだ言動になる。

⑭ いじめ

いじめそのものの苦しみと辛さを理解できない。

親や関わるおとなからの影響や環境が基で我慢したり、抑圧の反動がうそやいじめの背景にある。

⑮ 虐待

親の感情が先行して子どもの心を傷つけてしまう。

親自らの育ちの背景が基にある事が、なかなか理解されていない。

⑯ 聞く耳が持てない

周りの言葉が聞けない、信用できないなど、自分の考えや感情で判断し押し進めてしまう。

⑰ 禁止令

あれはダメ・これはダメ・なんでそうなるの、もっと頑張らないとダメなど「ダメ」が基となった、親や関わるおとなから発信された言葉・態度・しぐさなどの無意識の対応が、否定されて抑圧したまま気づかないうちに、自分は何をしても「どうせダメ・何やっても・無理だ・もーいや・どうでもいいや」とダメなんだと学習してしまう。

⑱ 傾聴

その子の話をまずは「そうなんだね」と受け止められない。

それは「どういうことなの」と訊ねながらその子の声に耳を傾けることができない。

⑲言えない脚本

関わってくれるおとなや、親のさまざまな環境 (共働きによる忙しさなど) の中で、子どもの立場から学ぶこと。

第一に、目を向けてもらえない・後回しにされてしまうことで、言いたいことが言えない → 繰り返していくうちに → 言えないから自分のことは言わないと子供なりに学習し、その捉え方・考え方が脚本となって成長していく。

また、おとなになってからの言動にもつながるのが脚本。

言えない脚本の一例

 Aくんは学校で友だちに言われた「お前ダサい」という言葉が頭から離れず、思い詰めていた。家に帰ってきたお母さんに悩みを打ち明けようとした。でもお母さんは忙しさからいつも「後で聞くから」ということが多かった。次第に「お母さんを困らせてはいけない、話さない方が良い」と決めた。それからA君は、そのことを思い出したくないとゲームに没頭するようになってしまった。

二つのタイプの引きこもり

 子どもたちの心の中には、ただ笑いたい・楽しみたい・泣きたい・辛かったと自分の喜怒哀楽の感情を、関わってくれるおとなや親に話したい、わかって貰えるだけで安心する、そんな思いがたくさん潜んでいます。それが基になって、子どもは自分を発信します。

 しかしその発信に対して①から⑱のような状況を受け止めた瞬間から、マイナス思考が働き、繰り返される対応によって何らかを学習していきます。

 そして抑圧された感情を抱き続けるうちに、気が付いた時には外側の引きこもり、内側の引きこもりのいずれかに進んでしまっているのです。内側の引きこもりは、家の中では時間帯によって歩けますが、基本、部屋を暗くして引きこもり、一人の世界に入ってネットゲームと自己防衛に入ってしまうタイプ。外側の引きこもりは、家に寄り付かなくなったり、ネットで知り合った人など、まったく関係ない人や自分と同じ境遇の人、自分を認めてくれる人を求めて、人への愛情依存やゲーム・ネット・ギャンブル・買い物などの依存に向かってしまうタイプです。

 このような二つのタイプとしてあらわれる引きこもりという心の閉鎖が、いずれも自己防衛となって、深い闇に入り込んでしまう子どもたちが、現在とても増えていることを知って欲しいです。そしてどうして二つのタイプの引きこもりに発展しまうのか、子どもたちが心の傷をどうして深めていくのか、①から⑲の項目が大きく影響していることを意識しながら関わって欲しいと願います。

 私たちが関わる立場が、子どもに対して①から⑱の傾向になりやすいことは、決していけないわけではなく、そんな時ほど関わる親やそれぞれの立場の方自身の心の状態に余裕がなく、落ち込んだりイライラしたりしていることが多いのです。私たち関わる側も、心に溜め込まないで、身近な人にヘルプしてもらいながら、心の状態を元気にしつつ子どもと向き合ってほしいと願います。その姿も子どもにとって、素直になるお手本になります。

 そのうえで最初にも述べましたが、すべての子どもたちの心の傷が癒やされ、安心して成長するために、親子・先生と子ども、それぞれの関わりの中で、「受け止められた・否定されない・わかって貰えた」、何より「認めて貰えた」という感覚が子どもの安心を増やせるのだと信じて、私たち関わる側から「どうしたかったの」と聞きながら、受け止めてあげて、良いこと悪いことを伝えて理解してもらえるよう関わっていくことが、子どもたちの安心と成長につながると信じて取り組んでいただけたらと、切に願っています。

最後に

 私たちかかわる側のおとな・親・学校の先生・サポートするさまざまな機関が、子どもの目線になって、何を不安に感じ、どうしたいと思っているのか、一緒に寄り添いながらそれぞれの立場で助け合い、より前向きになれる支援をしていくことが、子どもの心が閉鎖から安心の世界に歩き出すきっかけになることを理解していただけたら幸いです。また、子どもの時に学んだことがマイナスであるほど、そのままおとなになってもマイナス癖の言動をし続けて、生きづらさを抱えながら成長していきます。だからこそ、私たちが力を合わせて支援し合っていくことが「生きづらさをやわらげ、少しでも生きやすい子どもからおとなに成長する」ことも理解していただけたらと、心から願っています。


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