子どもたちを追いつめる不登校対策と教育機会確保法 不登校対策法

子ども相談室「モモの部屋」・心理カウンセラー 内田 良子

内田さんの顔写真

 2018年10月26日に文部科学省が発表した児童生徒 問題行動等 調査によれば、小・中学生の不登校は14万4千人余で、前年度より1万人増え、過去最多の人数になりました。 (表1)

表1 小学生の全児童・中学校の全生徒数と不登校の子ども数の推移 (中学生は中等教育学校 前期 課程を含む)

小学生の全児童・中学校の全生徒数と不登校の子ども数の推移のグラフ。小学生、中学生ともに80年代までは増加していたが、それ以降は減少している。しかし、年間50日以上または30日以上欠席する不登校の子ども数は増加している。

 特に小学生の増加率が高く、10年前に比べて1.59倍です。児童生徒総数が年々減少し、最少人数になったにもかかわらず、不登校の子どもが増え続ける学校で、何が起こっているのでしょうか。

 2017年度に自殺をした小・中・高校生は、文科省の発表で250人、警察庁の発表で341人です。自ら命を絶った子どもの数が91人も見落とされている文科省の調査に、死をもって訴えた子どもの命が握りつぶされ、どこにも届かない子どもの無念を感じました。

 学校なんて大きらい みんなで命を削るから

 先生はもっときらい 弱った心をふみつけるから 

 長野県北安曇郡松川村立中学校3年生の尾山奈々さんが、命を絶った時に遺した言葉です。1984年12月、今から35年前のでき事ですが、中学生が学校に抗議をして自殺した事実に社会が衝撃を受けた事件でした。子どもたちが日々の生活をする学校の現実は、奈々さんが絶望した当時より荒廃が進んでおり、毎日のように小中高生の自殺が報道され、その原因にいじめや、先生の指導の後に自殺する指導死があげられています。子どもたちが残した遺書や日記に「いじめがなければもっと生きたかった」「学校を休みたい」と書き残されています。「命を絶つくらいなら登校拒否をして欲しかった」と多くの親御さんは嘆き悲しみます。いじめや人格を否定する先生の指導に傷つき、学校での居場所を失った子どもたちは、それでも被害の現場である学校を休めなかったのです。内閣府の発表によれば、過去42年間の日別の自殺者の統計で一番多いのが夏休み明けで、次いで長期の休み明けが多いことが明らかになりました。 (表2)

 表2 学生・生徒等の自殺をめぐる状況 (18歳以下の自殺は、学校の休み明けに多い傾向がある)

学生・生徒等の自殺をめぐる状況のグラフ。18歳までの自殺において、過去40年間の日別自殺者数をみると、4月上旬や9月1日など、学校の長期休業明け直後に自殺が増える傾向がある事がわかる。このような時期に着目し、児童生徒の変化を把握し、学校や地域、あるいは家庭において、見守りの強化や、児童生徒向けの相談や講演等の対応を集中的に行うことが効果的であろう。

 子どもの自殺が学校に起因していることが統計からも読み取れるなかで、子どもが学校を休むことを認めない、文科省の不登校対策=早期学校復帰対策は、犯罪的ですらあります。

 文部省が学校を長期欠席する小中学生を「学校ぎらい」と問題にして統計を取り、対策するようになって53年になります。半世紀を超えた今も、子どもたちは学校にある問題を、登校を拒否することで訴え続けています。不登校は子どもの側の問題か、学校の問題かが問われています。学校側は登校を自明のこととして、休む子どもの性格や養育者の問題とし、教育相談や治療矯正の対象とし、学校復帰を求めて子どもの命を削ってきました。

 学校行けなくて苦しい

 学校行きたくなくて苦しい

 学校行って苦しい

 学校に来た私を見て、よかったよかった

 先生なにがよかったの

 父さんなにがよかったの

 母さんなにがよかったの

 1998年、堂野博之君が『あかね色の空を見たよ』で書いた登校拒否をする子どもの心です。当時から今日に至るまで、登校を拒否して不登校をする子どもの苦境を余すところなく表現し尽しています。子どもたちにとって学校がなぜこれほど苦しい場所に変質してしまったのか?いじめが日常化し、進路指導という名のもとに、競争と評価と管理が子どもの関係を分断し、教員の評価権が子どもの命を削っています。窒息しそうな教室をボイコットする子どもたちの増加に対し、学校の抱える問題を解決・改善することなく、早期学校復帰対策でしめつければ、不登校の子どもが増え続けるのは火を見るよりも明らかです。

 1990年に入ると、増え続ける登校拒否に文部省は認識を転換し、「不登校はどの子にも起こりうる学校問題」とした上で、不登校の早期発見と早期対策を掲げて、学校に心の居場所をつくる対策を打ち出しました。この時期からすべての子どもに不登校対策の網がかけられ、学校は休めない場所になりました。義務教育は子どもの登校義務へと変質していきました。

 3日休んだら不登校を疑い、担任は電話や手紙、家庭訪問をして登校圧力をかけることが仕事になりました。中学校では、スクールカウンセラーが全校配置になりました。学校長の指揮下で学校復帰を促すカウンセリングをすることが職能として求められています。しかし学校にある問題を解決することは無く、学校復帰を急げば子どもたちは心身ともに追いつめられ、不登校の子どもは増え続けます。この現実は明らかに不登校対策の失敗を示していますが、文科省は対策を総括し反省すること無く、議員立法という形で対策を強化し「見えなく化」する方向に舵を切りました。

 2014年安倍内閣の諮問機関である教育再生実行会議の第5次提言をもとに、超党派のフリースクール議連が立法に動き出しました。教育の民営化を目指す新自由主義と、フリースクールへの財政支援を求めるフリースクール全国ネットワークの利害が一致して推進に動き、事態は急展開しました。この動きに危機感を抱いた全国各地の不登校の当事者・保護者・教職員や研究者などから反対の声があがり、法案は二転三転した挙句に、当初案とは性格の違う「義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律」=不登校対策法が2016年12月に成立しました。不登校をしている子どもたちや保護者、教職員の声を聴くこともなく拙速に作られた法律には、問題が山積しています。

① 「不登校児童生徒」を法律で定義したこと

② 不登校の子どもが学校外で学ぶ不登校特例校の設置などの、別学体制と民間参入への道

③ 「児童生徒理解・教育支援シート」の作成による不登校の子どもの長期にわたる情報管理とプライバシーの侵害

 不登校は法律によって個人の問題とされ、新たな差別を生む危険性を孕んでいます。今年は法律が制定されて3年目の見直しの年です。教育の民営化に群がる教育産業は、法律を根拠に活発に動き始めています。

 学校現場の教職員の多くは法律ができたことを知らず、上からおりてくる、法に基づいた施策に忠実に従って働いています。気になる動きとして、中学校で不登校の子どもへの進級認定の校長面接が各地で始まっています。法が成立する以前には無かったことで、保護者と子どもを不安にさせています。

 不登校未然防止の動きが強まり、不登校ラインに達しない子どもたちの遅刻・早退・登校しぶりの段階から登校圧力が強化されています。いじめのある教室、教員が他の子どもを叱責したり罰を与える理不尽な指導に恐怖を抱き、教室に入れない子どもに同伴登校を求めたり、発達支援学級への移籍を勧め、手続きのために発達障害の診断を求めるケースが増えています。

 登校しぶりやさみだれ登校をしている子どもたちは、心は登校拒否・からだは登校しています。心とからだの不一致が子どもの行動と情緒を不安定にします。ストレスから体調を崩し頭痛・腹痛・起立性障害・頻尿など自律神経失調からくる多様な症状に苦しみます。これらの状態にスクールカウンセラーや担任は児童精神科や心療内科の受診をすすめ、発達障害グレーゾーン・早期に発症した子どものうつ・統合失調症などと診断され、向精神薬を処方されるケースが増えています。

 子どもの脳や神経は発達途上にあり、早期に精神科領域の薬を投与することの危険性を専門家は危惧しています。しかし担任やスクールカウンセラーはそのリスクを知らずに容易に保護者に受診をすすめ、服薬を促しています。不登校の未然防止や教室での行動制御のために薬は教育するおとなの都合で副作用に苦しむ子どもが出ます。

 こうした現実に危機感を抱き、国連子どもの権利委員会にレポートを出しました。それを受け止めた最終所見で、次のような勧告が出ました。

● ADHD (注意欠陥多動症) との診断が徹底的に検証されるようにすること

● 薬の処方が個別的評価を経てはじめて、最終的手段として用いられるようにすること

● 子どもとその親が投薬措置の副作用および非医療的な代替的措置について適切に告知されるようにすること

● ADHDとの診断数の増加および精神刺激薬の増加の原因に関する研究を行なうこと

この勧告を学校教育現場と精神科医療が受け止め、教育と医療が子どもの健やかな成長と発達を阻害しないことを切望します。 


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