子どもの権利条約を子どもたちの生活の中に! ワニブタカレンダー誕生の物語

特定非営利活動法人 子どもと文化のNPO Art. 31代表 大屋 寿朗

ワニブタカレンダーの表紙の画像

「僕にも『休息・余暇の権利』はあるの?」

 まだ、私が劇団の制作者として、演劇作品の話と絡めて、子どもの権利条約を伝える学習会を始めたころ、講師を依頼されたある地方の子ども劇場で、せっかくだから、子どもたちとも「権利条約」を語り合ってみたいとお願いし、子どもたちを集めて開いていただいた学習会での話です。

 小学校高学年から中学1年生までの子どもが6人集まってくれました。一か月ほど後にいっしょに見ることになっている演劇作品の紹介をしながら、できるだけ丁寧で、かみ砕いた言葉でと心がけて、「子どもの権利条約」を1時間ぐらい語った後、子どもたちから質問を受けたのです。

 一つひとつ引っかかる言葉の説明が求められ、私が答える、というやり取りが続き、みんな「ふーん」と、なんとなく伝わったような雰囲気。子どもたちにも興味を持ってもらえるんだと実感できて、初めてだからこんなものかと終わりかけたときに、最後に出てきた質問が、見出しの「僕にも『休息・余暇の権利』はあるの?」でした。

 よくよく聞いてみると、その質問をした小学5年生の男の子は、月曜日から金曜日は塾と習い事。日曜日はスポーツ少年団。そんな中で、土曜日だけがスケジュールの無い日なのに、その土曜日は子ども劇場の集まりがあって参加しているので、まさに、毎週空いている日が1日も無いのでした。その学習会も、その貴重な土曜日でした。

 「休息・余暇」の権利の学習会が、自分の「休息・余暇」を奪っている。暗に抗議されているように思え、ちょっと申しわけなく思いました。でも、彼が言いたかったことはそんなことではなく、「お母さんは、僕がしたいと言ったことを、僕のためを思って、頑張って働いてお金も払って、やらせてくれているので、最近ちょっとしんどくなってきたんだけど『しんどい』と言えない」ということだったのでした。そうなんです。親も子も「やりたい」と思い、「善かれ」と思って始めたことなのに。

 正直、その子の家庭環境を知らない私には先の問いに答える言葉はありませんでした。「うん、『子どもの権利条約』にはそう書いてあるんだよね」と、権利条約に責任を押し付けて、「でも、自分が思っていることをお母さんには話してみたら」と言うのが精一杯でした。でも、そしたら、中1の女の子が、「そうだよ、お母さんにちゃんと言いなよ、お母さんも心配しているかもしれないよ」とお姉さんっぽく言ってくれたので、何となくその場は明るさを取り戻し、とりあえずその学習会は終わりました。

子どもたちが「権利」を知ること。おとなたちが「Right」を「当たり前」ととらえること

 1か月後、私はその街に劇団の公演班を伴って、作品上演のために再びやってきました。

 開場時間が来て、入口でお客さんのお迎えをしていたら、その男の子が、お母さん、お父さん、妹と一緒にやってきました。「いらっしゃいませ」と迎える私に、お父さんと手をつないだその子はニコッと笑って応えてくれました。うれしい笑顔でした。

 後で別のお母さんから聞いた話では、あの後帰ってすぐにあの子はお母さんに素直に話をしたそうです。「僕にも権利があるんだって」と。お母さんも、子どもに善かれと思って始めさせたし、始めた以上途中でやめさせたくないとは思っていたのだけど、本当にそれが子どものためなのだろうかと心配されていたそうです。でも、子どもの気持ちを聞けたことで、ちょっと安心したといっておられたそうです。「無理が無いように整理していこうと、子どもと話し合えました」とのこと。解決したのかどうかは知りません。でも、きっと、親と子がともに意見を聞き合える関係の入り口にはなったのではないか、と思うのです。そして、それは、子どもの最善の利益への一番の近道だと。

 やっぱり、「権利」は「Right」。対決し、対立するためにあるのではなく、わかり合いつながりあうための人間の知恵。「当たり前のこと」「正当なこと」だと、改めて教えてもらいました。

子どもたちが、生活の中で、自分のこととして「権利」をとらえるために

 だとすれば、「子どもの権利」も、子ども自身の生活の中で「自分のこと」として考える機会を日常の中にもっと増やす必要があるのではないかと考えました。そうしたら、もっと子どもたちはおとなに話をしたがる。そして、おとなは聞くことを「Right=当たり前」だととらえさえすれば、子どもの声を疎まず、恐れずに聞くことができる。

 「学習会」も一つのきっかけではありますが、もっと日常の生活の中で目に入る場所に、自然な形で「権利条約」を置くことができないか、ずっと考えていて思いついたのが、カレンダーという生活用品でした。しかし、押しつけがましい説明ではなく、いつもそばにいて飽きないものにしなければ、生活の中にはおいてもらえない。そう思いながら数年の月日が経ってしまったのですが、そこで出会ったのが、とぼけたユーモアにあふれたワニとブタのイラストでした。

 私はその中に、できるだけ説明を排除して、事実だけを、易しく、ぶっきらぼうに伝える言葉を選びました。子どもたちが考えたくなるように、考えることを邪魔しないように。そして、身近なおとなと語り合えるように。


1月

国連は 戦争を なくすためにあるんだよ。

ワニブタカレンダーの1月の画像

2月

こどもには 未来が たくさんあるよ。でも、今を ちからいっぱい たのしくいきることも だいじだよ。

3月

権利って みんながみとめた 「あたりまえ」のこと。

4月

条約は 法律よりえらい。世界のひとたちとの 約束だから。

5月

子どもは やすんだり ときには ぼーっとしたりすることができる。

ワニブタカレンダーの5月の画像

6月

子どもは あそんだり レクリェーションをしたり することができる。

7月

こどもは 芸術や 文化的活動に 参加することができる。

8月

こどもは やすまないと こわれる。こどもは やすまないと そだつことができない。

9月

余暇は こどもがすきにつかえる 自由なじかんのこと。なにもしない じかんもたいせつだよ。

10月

あそびは こどもの 主食だよ。あそびは 明日をいきる ちからをつくり 今 こころをふるわせるような しあわせを あたえてくれる。

ワニブタカレンダーの10月の画像

11月

おとなから むりやりやらされるのは レクリェーションでも あそびでもない。

12月

こどもは うたったり えをかいたり おしばいをしたり することができる。歌や 芝居や 本とであい、こころをふるわせて、世界をしる。

ワニブタカレンダーの12月の画像

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