子どもたちの余暇と自由な遊びに十分な時間を 国連 子どもの権利委員会 日本政府 第4・5回 統合報告審査

特定非営利活動法人 子どもと文化のNPO Art.31 代表 大屋 寿朗

大屋さんの顔写真

 昨年の「長野の子ども白書 (以下、白書) 2018年版」の「子どもと遊び・文化・余暇・休息 事例①」でご紹介した「国連子どもの権利委員会 (以下、権利委員会) 」における日本政府の第4・5回 統合報告に対する本審査が、2019年1月16日から17日にジュネーブの国連欧州本部 (人権高等弁務官事務所) で行なわれ、私も参加し、傍聴をしてきたのですが、その結果が、「最終所見・勧告」として3月1日に正式公表されました。

 この「最終所見・勧告」を、権利委員会の求めに応じてオルタナティブ・レポート (市民・NGO報告書) を提出した「子どもの権利条約市民・NGOの会 (以下、市民・NGOの会) 」は、すぐさま各専門分野の研究者・実践家のみなさんで分担して全文を翻訳し、担当した方たちの解説を付して発表し、Art.31と協力してパンフレットとして発行しました。

 市民・NGO報告書では、私たち31条の会 (市民・NGOの会 子どもの生活部会) は、第31条に関する政府報告について、 「政府が『ゼネラルコメント№17』を理解していないか、もしくは無視している」 ことや、「31条を実現するための総合的で具体的な政策が必要」であることを指摘したうえで、「子どもの発達に不可欠な子どもの自由時間、自分の意思で使える時間を学校の内外に確保して、ライフバランスのゆがみをなくすこと」が緊急に求められると権利委員会に課題を提起していましたが、権利委員会からの勧告は、

休息、余暇、リクリエーション活動、および文化的、芸術的活動

 休息、余暇、遊び、リクリエーション活動、文化的生活、および芸術に関する子どもの権利に関するゼネラルコメント第17号 (2013年) に基づき、本委員会は、十分かつ持続的な資源を伴った遊びと余暇に関する政策を策定、実施すること、および、余暇と自由な遊びに十分な時間を割り振ることを含め、休息と余暇に関する子どもの権利、および、子どもの年齢にふさわしい遊びとリクリエーション活動を行なう子どもの権利を確保するための努力を強化することを締約国に勧告する。

(パラグラフ41)

というものでした。明らかに私たちの提言を国連が受け止めたものだと言えます。

 これまで権利委員会は、日本の子どもたちが「高度に競争的な教育制度のストレスおよびその結果としての余暇、運動、休息の時間が欠如していることにより、発達障害にさらされている」ことについて、第一回から一貫して懸念を表明し、その同じ文章の中で、第31条の権利への注意喚起を勧告 (第三回最終所見) していたのですが、今回は、「教育」の分野 (パラグラフ39) で、『前回審査での勧告を踏襲し、あまりにも過度な競争的な制度を含む学校環境から子どもを開放することを目的とする措置を強化すること』という具体的な措置の強化を求めたうえで、第31条について始めて文章を独立させて予算確保を伴う具体的な政策の策定と実施を勧告しました。これ自体とても重要な進展です。しかし、それは、単に権利委員会が第31条を重要視したというだけのことではありませんでした。このパラグラフ39、41パラグラフに先行して、「一般原則 (基本原則) 」である第6条「生命、生存および発達に関する権利」についての勧告パラグラフ20 (a) で、

生命、生存および発達に関する権利

 本委員会は、前回勧告を締約国に想起させ、以下のことを要請する。

(a) 社会の競争的な性格により子ども時代と発達が害されることなく、子どもがその子ども時代を享受することを確保するための措置を取ること。

と、日本の子どもたちの苦しさの原因は単純に教育制度にあるだけでなく、社会全体が競争的な性格にあるという認識を、初めて示しているのです。

 今回の審査の中では、「福祉」「教育」をはじめさまざまな分野で、子どもの「保護」が改めて強調されています。いわゆる「先進国」と呼ばれる国々への勧告の中ではとても異例なことだと言われています。日本の子どもたちの「生きる権利」「守られる権利」の侵害が、他の先進国では考えられないほど激しさを増しているということです。権利委員会はその認識の上に立って、私たちが市民・NGO報告書で第1回からずっとその大切さを主張してきた「子ども期」という言葉を初めて使いました。この「子ども期」を奪うのが日本社会全体の「競争的な性格」という勧告だと読むことができます。

 自殺、いじめ、引きこもり、不登校という、生命を奪い、生存を脅かし、発達を阻む権利侵害がなぜなくならないのか、なぜ減らないのか、権利委員会は、この1年半にわたる審査の過程でも、そして所見・勧告前の最後のチャンスである本審査の討議の中でも、繰り返し日本政府代表団に問い質しました。しかし、日本政府代表団は、その問いに答えようともしませんでした。問題意識さえ共有できず、答えられなかったのかもしれません。

 そんなやりとりの中で、権利委員会はその重大な原因を、政治や社会の在り様全体に求めたのではないかと、私には思えました。パラグラフ20の分析が、パラグラフ39と41の緊急性、具体性につながって見えるからです。

 私たちが繰り返し指摘した「競争的社会」が、原因として名指しされたことはたいへん大きな進歩です。わたしは、「子ども期」の、とりわけ重要でその柱となる権利が、休息・余暇、遊び、文化・芸術の権利を謳う 第31条の諸権利であると考えてきました。そしてその権利を侵害していることが、今、子どもたちにとっての最大の苦しさであると訴えてきました。この白書の中でも多くの執筆者が指摘してきたように、十分な休息の上に保障される自由な時間 (余暇) が自由で主体的な遊びを生み、自由で主体的な遊びが好奇心と創造性を養い、学ぶ力生きる力として子どもたちの中に育ち、学ぶ喜び生きる喜びを実感させ、そして、蓄積された文化や優れた芸術が、心を安らげ、魂をゆさぶり、生活と人生を豊かにしていく、そんな第31条が要求している環境と、子どもたちの幸福と成長をゆがめている競争と管理の環境を置き換えていくことが、待ったなしに今求められているのだと思います。今回の最終所見・勧告は、そんな私たちの背中を押してくれているように思えるものでした。

 次の日本政府の報告は、5年後2024年の11月21日を締め切りにすると定められました。5年後もまた懸念が深まり、勧告が繰り返されるようでは、何のための審査か、何のための条約かわからなくなってしまいます。改善を政府に求めることは当然ですが、子どもたちにとっても私たちにとっても5年はあっという間です。次回は、政府や行政の人たちも含めて、問題意識を共有し、具体的な政策に踏み出し、改善を喜びあえるようにしなければなりません。そのための審査であり、条約であるはずです。今回の経験から、わたしたちも、5年後にはより実態を反映し、更に有効な提言ができる報告書が作れるように今から準備を始めることも大事だとより実感することができましたが、同時に、改善に向けて実践と経験を具体的に作り出すことがより重要で必要とされているのだと思います。

 まずは、権利委員会も指摘したように、子どもに関わるすべての人たちが、第31条を正しく共有するために、ゼネラルコメント№17 (31条の総合的解説) に基づいた正しい理解を広げていくことが重要だと考えています。

 Art.31は「第4・5回最終所見」と「ゼネラルコメント№17」をセットにして、広く普及していくことを第一歩とします。併せて、「なかなか読んだだけでは理解しづらい」と言われるみなさんの声に応えて、また、「31条の会」や「市民・NGOの会」の専門家の皆さんの活躍の場も広げていければとも考えて、学習・交流の場を積極的に作っていきたいと考えています。

 みなさんも、地域やお仲間と学習会など開いてはいかがでしょうか。お役に立てることがあれば、喜んでご協力をいたします。

国連子どもの権利委員会 日本政府第4・5回統合報告審査 最終所見 翻訳と解説の写真

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