2019 長野の子ども白書発行にあたって

長野の子ども白書編集委員会事務局代表 小林 啓子

 2019 長野の子ども白書が、ご参加・ご協力・ご指導いただいた多くの皆様と、お読みいただく読者の皆様のおかげで今年もここに発行できますことを、心より御礼申し上げます。


 国連子どもの権利条約の実効ある実現を願う私たちは、国連子どもの権利委員会が2010年に行った第3回日本政府報告の国連審査にある「高度に競争主義的な学校環境が、就学年齢にある子どもの間のいじめ、精神的障害、不登校・登校拒否、中退および自殺の原因となることを懸念する。」と言う指摘に、長野県に於いても思い当たることが多くあると実感してきました。

 第4・5回統合報告書は、2017年7月に政府報告書が提出され、国連は市民・NGO代替報告書を募集しました。11月に提出された「市民・NGOの会」の報告書のはじめには、

 「社会全体が抑圧的になり、過度な競争環境のもとで子どもの人間的な成長・発達が歪められ、子どもたちは、幼児期から親の目を気にし、幼児保育の学校化がすすみ、学校では学力テストを意識し、自分のだけでなくクラスと学校の順番を気にし、仲間はずれにならぬように気遣う。そこでは主体的な学びの権利と自由な遊びの権利が奪われていく。またそこからくる抑圧的心性は、ときに外へ (いじめ、校内暴力など) ときに内へと向かい (不登校。自殺) 、自分自身の充足感 (well being) がもてず、豊かな内面を育てる自由な空間と時間と人間関係を奪われている。貴委員会が指摘した子どもの貧困、関係性の貧困はますます深刻化していると言わざるをえない」 (会長・堀尾輝久氏記) と記されていました。

 2019年1月、第4・5回統合国連審査の結果、2月に出された勧告では、全体として日本の子どもの権利保障について大きな懸念が示され、社会全体の「子ども観・子ども期の保障」におよぶ勧告が政府に対して行なわれました。詳細については、本文中 大屋 寿朗さんの報告を参照してください。長野県の子ども・若者は、自殺・不登校・いじめなど、全国的に高い水準にあります。これらは子どもに加えられているプレッシャーを図る指標とも言われています。そのプレッシャーとはどのようなものなのか。それはなぜどのようにして子どもたちを不安にし、やがて追いつめたり追いやったりするのか。これは日本の子ども全体の問題であるとともに、その中でも特に深刻な状態にある長野県であるからこそ解明したい課題です。私たちは、国連による政府への最新の勧告に込められた大きなテーマが、実はそのカギを握っていると考えています。

 今号は、以上の立場から2つの特集を組みました。

特集1 今とりもどしたい「子どもの自由な時間と空間」・子どもの権利条約31条を今こそ

 不登校体験者が語る体験の中には、何が彼らを学校から追いやり、苦しめていたのかが見えます。それらが個人的な事情や感じ方では無く、社会や学校や家庭の「子ども観」にあるのだと言うことに気づき、「あるもの」よりも「失われているもの」に気づきます。大事なものを保障することは、競争や評価や管理を離れれば、いくらでも実現できることも大きな希望です。

特集2 子育て家庭の貧困・子ども若者の学ぶ権利の保障

 5回目の特集になります。すでに日常的な言葉になった「子どもの貧困」は、まだまだ正確な可視化は進んでいません。長野県が行なった調査の結果から冷静に読み解く長野県の子育て家庭の経済的困窮は、二極化し始めている国民全体の経済格差の中にあります。個人責任では無く、社会問題としての (公的責任としての) 解決は、子どもの権利委員会からも指摘されています。公的サービスを受ける主体者としての立場から、この課題の可視化に努めました。


 各分野における報告にも、子どもの権利保障と、その最善の利益を実現する願いがこもっています。多くの方にお読みいただき、ご批判・ご助言をいただければ幸いです。

2019年5月 長野の子ども白書 編集委員会 事務局代表 小林 啓子


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