子どもと医療・障害・いのち 事例 5

大規模高校の保健室の現状 養護教諭複数配置を!

高校養護教諭 柳沢 愛子


はじめに

 近年、グローバル化や情報化が急速に進展し、社会が大きく変化し続ける中で、学校においても子どもを取り巻く環境や生活スタイルが変化しています。肥満・痩身、生活習慣の乱れ、メンタルヘルスの問題、アレルギー疾患の増加、性に関する問題、災害や事件事故発生時における心のケアの問題等、深刻さを増しています。また、身体的な不調の背景には、いじめ、虐待、不登校、貧困などの問題が関わっていることもあります。このような状況の中、複雑化・多様化した健康課題の解決に向けて養護教諭に対しての期待が高まり、役割が拡大しています。

高校養護教諭の複数配置

 2019年1月の新聞報道で「県内の県立大規模高校養護教諭2人配置なし」という記事があり、話題になりました。標準法では801人以上の学校は複数配置であってよいはずです。養護教諭複数配置について、長野県の高校現場においては、全国や同じ長野県の義務教育と比べて非常に遅れています。現在21クラス以上の学校は14校あり、そのうち2校に非常勤講師がつきました。さらに2019年度は2校増え4校に非常勤講師がつきますが、多忙期の養護教諭補助であって複数配置ではありません。それに準ずる規模の20クラスという学校がさらに3校あります。せめて各地区1校ずつ複数配置をしていけば、4年から5年で完全複数配置がかなうのではと願っています。また、妊娠中の養護教諭・助教諭の業務軽減のための代替非常勤講師の配置要求についても引き続き声をあげていきたいと思っています。

本校の様子

 本校は22クラスの大規模校で、ほとんどの生徒が大学に進学していく進学校です。クラブ活動も盛んなためケガが多く、毎月の日本スポーツ振興センターの申請件数は30件から40件となっており、年々申請件数が増えています。

 4月の健康診断の時期はさらに忙しく、検診や身体測定を1週間で終わらせ、その間、体調不良の生徒やケガの処置対応を行なっています。本校の2018年度の健康相談内容 (2018年12月末集計) では発達障害が28%と一番多く、次いで家族関係15%、友だち関係12%となっています。 (図1)

図 1 健康相談内容のグラフ。割合は順に 発達障害 28%、家族関係 15%、友達関係 12%、持病 11%、異性・自分自身のこと・勉強 9%、授業 3%、進路・クラブ活動 2%

 毎年、保健室登校の生徒がいますが、今年も保健室登校の生徒2名を抱えていましたが、この春、無事に卒業となりました。

 発達障害の診断がある生徒は年々増えてきていて、支援シートや個別の支援計画に沿って支援しています。授業中パニックを起こして保健室に来室する生徒は教室に行かれなくなってしまい、保健室で個別の支援計画に沿って各教科からの課題を行ない、学習をしていました。勉強するだけでなく、各教科担当が保健室に来て授業の進度やわからない問題等、教えに来てくれます。発達障害の生徒を支援する際、生徒相談だけでなく全教職員の理解や支援が必要になります。個々の生徒によってこだわりや特性が違うため、教職員の研修会は必須です。電子黒板の導入もありましたが、本校では合理的配慮として授業中iPadを使用している生徒もいますが、個々の特性に合わせて『学びの工夫』を常に行なっていきたいと思います。

 持病の中に起立性調節障害や片頭痛の生徒も多く、病院との連携も行なっています。自律神経系の乱れには、スマホ依存やゲーム依存といった背景もあり、生活習慣の把握を行ないながら、少しでも状態が良くなるように個別の保健指導も行なっています。

 家族に関する悩みの相談も多く、両親の離婚によって進学から就職に変えなければいけない生徒や、友だち家族のように高校生にもなると逆に親から相談され、どう返事をしていいのかわからず悩んでいる生徒もいます。さらに離婚裁判になっている生徒は、大学進学を目指して奨学金を考えていましたが、正式な離婚とならないために奨学金が借りられないといったケースもありました。家庭内暴力についても同様です。今や社会問題にもなっていますが、DVは見た目にはわからず、見えない部分に隠された大きなものを抱えています。進学校でも児童相談所との関わりもあり、どこの学校でも起こり得る状況です。

 家庭環境が複雑で、外国籍の保護者や一人親家庭、親の介護が必要だったり病気を抱えていたり、市町村の福祉課との関わりがある家庭もあったりします。そのため自分の学費や生活費等、アルバイトを行なって生活している生徒もいます。お金がないため、弁当もない・パンを買うお金もないと昼休み教室に居られないと訴えてくる生徒もいます。

 外国籍や帰国子女の生徒でクラスメイトとコミュニケーションがとれず、落ち込んでいる生徒もいます。外国籍や帰国子女、留学生がいる本校では、宗教によって食べられない食材があったり、断食を行なったりしている生徒がいます。日本の文化や習慣が合わないと思うこともあり、日本語が通じない保護者・生徒に対しては、外国語の先生に通訳してもらいながら学校のルールについて話をすることもあります。

 ストレスや精神的不安を感じ、何のために自分が存在しているのか、生きていて良いのかと思い悩んでいる生徒もいます。「どうしたの?」と声をかけただけで、急に泣き出す生徒もいます。自分の置かれている状況を自ら語るのではなく「気づいてほしい!」というサインを送っているのです。次から次へと来室するため、生徒の心身の健康相談は欠かせませんが、なかなか時間がとれない現状です。

 生徒だけでなく保護者の対応もあり、日本スポーツ振興センターの問い合わせや、ケガや体調不良の状態の連絡等、対応がない日はありません。また、教職員の長時間勤務や過労死が問題になっていますが、自分を含め教職員の心身の健康についても、生徒同様、注意が必要です。人数が多いということは、いろいろな対応を1人で行なわなければならず、常に気を張っています。養護教諭1人では体がいくつあっても足りないと思うことばかりです。

今後の展望

 長野県は若年層の自死率が高く問題となっている中、生徒の心身の健康管理を行なっている養護教諭が不足している状況も問題だと思います。養護教諭はちょっとしたサインを見逃さないようにとの思いと裏腹に、1人では関わりきれていないジレンマがあります。生徒が生涯にわたって健康な生活を送るために必要な力を育成するために、養護教諭は他の教職員や学校医等の専門スタッフとの連携等、コーディネート力やマネージメント力が必要になります。私自身、養護教諭や教職員、地域や福祉、学校医や医療機関等、多くの方や仲間に支えられて今があります。命の大切さや仲間の大切さを毎日意識して過ごしています。

 現代の若者・子どもたちは、自己肯定感 (自尊感情) が低くコミュニケーション能力の低下などの傾向も指摘されています。SNSやゲーム、動画サイト、メディアリテラシーに関連する現代の健康課題解決に向けて、現実世界 (リアル) の友だちや仲間の大切さ、命を大切にできる高校生になってほしいと願っています。


※分野 6 の記事は以上です。

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